行雲流水
2017年6月13日(火)9:01
【行雲流水】(三木清)
﹁真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む﹂。これは、岩波文庫発刊に際して発表された﹁読書子に寄す﹂の冒頭の言葉である。この文章の草稿を書いたのは三木清である
▼三木は、﹃善の研究﹄を書いた西田幾太郎に憧れて京都大学哲学科で学び、卒業するとヨーロッパに留学、﹁人間は考える葦︵あし︶である﹂という言葉で知られるパスカルを研究、﹃パスカルに於ける人間の研究﹄を書いた
▼代表作のひとつ﹃人生論ノート﹄で、三木は時の権力から弾圧をうけながらも、一貫して自ら信ずることを書き、1938年の初版から、現在まで、ロングセラーを続けている。例えば﹁幸福論﹂では、国のため滅私奉公が美徳であるという風潮のなかで﹁個人の幸福﹂を肯定、﹁人格こそが幸福である﹂と述べている
▼親鸞︵しんらん︶の研究を進めるところであったが、三木は、治安維持法体制下で拘留され、戦争が終わって1カ月余も釈放されず、劣悪な環境の中で獄死する。そのことを知ったマッカーサーは驚き、早速治安維持法等の廃止を指令した。1997年、龍野市は三木に名誉市民の称号を与えている
▼いま、共謀罪法案︵テロ等準備罪︶は、﹁平成の治安維持法﹂だとの批判がある。国際ペンクラブなど、国の内外から、市民監視が強まり、国民の内心の自由や表現の自由、プライバシーの権利が制約されるおそれがあると、危惧されている
▼戦後日本は、平和で文化的な民主国家を目指してきた。そのことを忘れてはなるまい。