2015年は江戸川乱歩の没後50年にあたる。﹃少年探偵団﹄シリーズをはじめ、少年少女向け作品のイメージが強い江戸川乱歩だが、そう簡単に判断できる作家ではない。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が指摘した。
* * *
あれからもう半世紀以上経ったのか。今年が江戸川乱歩没後50年だと聞いて、私が思い出したのは、東京下町の高校に通っていた頃の国語の授業の一コマだった。
東大出のその教師は、江戸幕府転覆計画が漏れて自刃した由比正雪のような総髪をし、達意の文章、特に古典の名文を読むときは音吐朗々、独特の髪形とも相俟って、書かれた世界に引きずりこむ魔力めいたものがあった。
あれは東京オリンピック開催が半年後に迫った1964年の5月だった。国語教師は教室に入ってくるなり、憔悴した表情で﹁今日は大変悲しいことがあったので、授業はできません﹂と言った。
そのわけは、帰宅して夕刊を開いて初めてわかった。わが国探偵小説雑誌の嚆矢となる﹁新青年﹂の伝統を受け継ぎ、乱歩が私財数百万円を注ぎ込んだ﹁宝石﹂が、累積赤字が嵩んで廃刊となった。記事には、中島河太郎という文芸評論家の廃刊を悲しむコメントも載っていた。
その文芸評論家こそ、今日授業を休みにしたばかりの国語教師だった。中島先生が正宗白鳥や柳田國男の研究者だということは知っていたが、わが国の探偵小説や江戸川乱歩研究の第一人者だということは、知らなかった。
♪ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団 勇気りんりんるりの色……という主題歌から始まるラジオドラマの﹁少年探偵団﹂は、小学校時代欠かさず聞いたし、明智小五郎シリーズも貪るように読んだ。
だが、高校に進学する頃になると、乱歩の作品は幼稚すぎて読めなくなった。乱歩を見直す気になったのは、﹁宝石﹂の廃刊を死刑でも宣告されたように受け取る先生の深刻な表情を見たためだった。
関連記事
トピックス
吉村洋文・大阪府知事が「ライドシェア大幅緩和」を主張で「かえって渋滞を深刻化させる」リスク 派手な改革を求めるほどに際立つ「空疎さ」
週刊ポスト
《高級寿司店と炎上の港区女子に騒動後を直撃》「Xの通知が一生鳴り止まないんじゃないか」大将と和解後の意外な関係
NEWSポストセブン
【不倫の抑制にも】藤本美貴、安めぐみ「結婚相手は芸人がいい!」 は意外と正論「夫婦セット売りで裏切れない関係に」
NEWSポストセブン
小倉優子、早々の「大学留年宣言」がおいしすぎる理由 「女子大生+ママ」の二刀流は唯一無二、ゆくゆくは企業の役員の道も?
NEWSポストセブン
紀子さま“体調不良報道”でも気丈な姿、単独公務先で「こちらにどうぞ」と気さくに声かける お元気そうな様子に同行していた記者たちは驚き
週刊ポスト
《人質らが証言する劣悪環境》ボーイフレンドの目の前でハマスに拐われた26歳女性の救出に成功も「体重激減」「ゴミ箱で排泄」の惨状
NEWSポストセブン
《鹿児島2歳児切りつけ》「見えたらいけないものが…」21歳の女性保育士が犯行前にSNSで意味深投稿 母校の高校関係者は「夢の実現目指して熱心に勉強を」
NEWSポストセブン
三田寛子、夫・中村芝翫と愛人の“半同棲先”に怒鳴り込んだ「絶妙タイミング」 子供たちも大事な時期だった
週刊ポスト
《ファンの声援にブチ切れ》沢田研二が「見てわからんか!」とステージ上で激怒し突っ込んだ「NGワード」
NEWSポストセブン
愛子さま、歓迎会の翌日の朝に遅刻し「起きられませんでした」と謝罪 “時間管理”は雅子さまと共通の課題
NEWSポストセブン
【悲劇の発端】瑠奈被告(30)は「女だと思ってたらおじさんだった」と怒り…母は被害者と会わないよう「組長の娘」という架空シナリオ作成 ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
【全文公開】中村七之助、梨園きってのモテ男が“実家お泊り愛”の真剣交際 お相手は京都の芸妓、直撃に「ありがとうございます」
女性セブン