[FT]クリントン氏、メール問題拡大(社説)
2016年の大統領選は、ヒラリー・クリントン氏圧勝の様相でスタートした。民主党選には説得力のあるライバルは出馬しておらず、共和党のドナルド・トランプ氏は、立候補表明以来党を混乱に陥れている。だがクリントン氏は、同氏自身が最悪の敵だということに対して、気の利いた言いわけを示そうと躍起になっている。
同氏は、国務長官時代に個人のサーバーを使用しており、その調査に対処する同氏の態度は被害拡大のよい事例となっている。同氏は、自身の過ちを認めて態度を改める代わりに、むしろ攻撃をかわし、都合良く話を作り上げ、大したことではないかのごとく振る舞い、つまり、問題に向き合う以外のことをやっている。結果的に調査は拡大し、いまや米連邦捜査局︵FBI︶も巻き込む事態となっている。さらに心配なことに、クリントン氏への信頼度評価はネガティブになっている。米国有権者の過半数の信頼を勝ち取れないままにホワイトハウスへの道を達成できた候補者はいない。バイデン副大統領は、クリントン氏の行き詰まりが続くならば、既に出馬の準備はできていることを暗示している。
クリントン氏が状況を好転させることは簡単ではない。かいつまんで言えば、同氏は国務長官としての全ての電子メールを、ニューヨークにある自宅に設置した個人の暗号化されていないサーバーを通して送っていた。また同氏は、全ての電子メールの通信を自身の個人アドレスで行っていた。オバマ政権のほかの閣僚や連邦政府の職員も、だれもそうしたことはしていない。同氏が当時それをしたことは技術的には許されることだったが、政府高官の公務の通信全ては、連邦政府の財産だ。それにもかかわらずクリントン氏は、自身の行為を個人的なものとして扱った。さらに言えば、機密資料を暗号化されていないシステムを使って送ることは法に違反する。
クリントン氏は2014年、政府の弁護士に対して嫌々ながら3万を超える公務の通信に使った電子メールを差し出した。しかし同氏は、個人的なものだと言って削除したそのほかの3万の電子メールに対して責任を負うことになった。現在FBIは、押収した同氏のサーバーからそれら削除された電子メールを復元しようとしている。
さらに悪いことに、同氏が差し出した多くの電子メールには、実際に機密資料が含まれていたことが発覚した。そのうちのごく一部しか公開されていないが、もっとありそうだ。クリントン家の特性ともいえるが、まるで同氏にとっての法律が一つあり、他の人々にはほかの法律があるかのごとく振る舞ったというのが、同氏の行為に対してつけられる最も体のいい言い方だ。そうした一族の特性自体がまさに同氏に対する批判のネタを提供しているが、今回の事態はさらに深刻となる可能性がある。
選挙戦、頓挫する可能性も
同氏は、政敵から自身を守る道を探して、米国の安全保障を危険にさらした可能性がある。中国やロシアなどの外国に漏れることがほぼ確実な方法で、米国政府の支配下から自らの通信を切り離すためにあらゆる手を使った。エドワード・スノーデン氏の事件が示したように、暗号化されていないサーバーに侵入することは比較的簡単なことだ。今回も恐らくこうした事例であることが判明するだろう。もし高機密資料が含まれた同氏の電子メールが、米国情報機関の﹁出所と方法﹂を危険にさらしたことが判明すれば、同氏は気づかないうちに非常に深刻な問題の渦中に置かれる可能性がある。米司法省は起訴するか否かの決断をしなければならなくなるだろう。同氏の選挙戦が頓挫する可能性さえある。
では、同氏が今の時点でそれに対してできることは何か。その答えは非常に限られている。複数の調査が進行中で、今後数カ月、同氏の目前で厄介な暴露が続く可能性があるこの段階にあっても、同氏は自らの過ちを認めなければならない。同氏は先週、SNSアプリの米スナップチャットにアカウントを開設した際、メッセージが消えてしまったという冗談を言って、ことの重大性を矮小︵わいしょう︶化した。これは許されないだろう。クリントン氏が問題を解決し、態度を改めない限り米国の有権者は、最高司令官としての同氏の資質に疑いを持つのは当然だ。
︵2015年8月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙︶
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