本紙夕刊小説、川上弘美氏の﹁森へ行きましょう﹂は2月18日で完結、20日から木内昇氏の﹁万波︵ばんぱ︶を翔︵かけ︶る﹂を連載します。
木内氏は1967年生まれ。出版社勤務を経て2004年に﹁新選組 幕末の青嵐﹂で作家デビューし、11年に﹁漂砂のうたう﹂で直木賞を受賞しました。江戸から近代を舞台に、時代の変化に翻弄されながら懸命に生きる人々を描く作品が高く評価されています。科学技術と人間の関係をテーマとした近作﹁光炎の人﹂など、鋭く社会を問う作品にも挑戦しています。
﹁万波を翔る﹂は幕末から明治にかけて活躍した実在の幕臣・外務官僚の田辺太一が主人公の物語です。諸外国が次々と開国を迫るなか、外交という初めての経験に日本人はどう向きあったのか。江戸っ子の快男児太一の視点で、激動の時代を軽快に描きます。
挿絵と題字は機知にあふれた作品で知られる美術家の福田美蘭氏が担当します。
︿作者の言葉﹀
前例のないことに挑めば、当然困難な道を行くことになります。手探りで方法を模索し、構築する労力は並大抵ではありません。幕末、長きにわたる鎖国が解かれ、はじめて本格的な外交事務にあたった幕臣たちも、そんな険路を辿︵たど︶ったのではないでしょうか。
これは、ひとりの男が外交という未知の仕事に出会い、努めていく物語です。努力が報われるとは限らない、真摯な姿勢がかえって周りから煙たがられる。今も昔も、仕事の場にはそんな絶望がいくらでもあります。でもそれがなんだ。俺はやるべきことを終︵しま︶いまでやり遂げるだけだ――彼はそんな人です。
彼が大海にこぎ出していったように、この連載も万波を乗り切って進んでいければ、と願っています。