垂直統合のiOSと、水平分業のAndroid──エコシステムの「隙間」の違いを考える
2011年3月7日
/ 星 暁雄
2011年2月28日、KDDIは、米Morotolaが開発したAndroid3.0搭載タブレット﹁XOOM﹂の国内販売を発表した。4月上旬以降から国内販売する。Android3.0搭載タブレットとしては、先にNTTドコモから、韓国LG Electoronics製の﹁Optimus Pad﹂が発表されている。そして2011年3月2日、AppleはiOS搭載タブレットの新機種であるiPad2を発表した。3月25日から国内販売する。
このように、iOSとAndroidの両方の最新タブレットが揃って登場することになる。
今ではiOSにもAndroidにもそれぞれの﹁エコシステム﹂が形成されていて、IT産業の重要な一部になっている。AndroidタブレットもiOSタブレットも、今後は重要な製品として定着していくだろう。その新機種が出てきたタイミングで、両者の違いについてスケッチしておきたい。
垂直統合のiOS搭載デバイス、Appleは強力な収益力を持つ
iOS搭載デバイスのエコシステムと、Android搭載デバイスのエコシステム、この両者の違いを説明するには、よく知られたキーワード﹁垂直統合﹂と﹁水平分業﹂を使うと分かりやすい。iOS搭載デバイスは典型的な垂直統合モデルだ。Android搭載デバイスは、後述するように独特の事情を伴った水平分業モデルと考えられる。 垂直統合モデルは成熟した市場と技術に適しており、収益性に優れる。iOS搭載デバイスの分野では、Appleという一つの会社がすべてを決め、少ない機種数に開発投資を集中し、製品の洗練、成熟を武器としつつ大きな利益を上げようとしている。アプリ開発者や、アクセサリ類のメーカーが、iOSエコシステムの周辺でビジネスをしている。ただし、収益モデルの大きな部分をAppleが押さえている。iOSのエコシステムに食い込む余地は、アプリのビジネス、コンテンツのビジネス、アクセサリのビジネス、それに﹁土管﹂としての通信事業者、という形になる。 iOSエコシステムへのAppleの支配力は強力だ。iOS搭載デバイスは、心臓部の半導体︵SoC︶、OS︵iOS︶、電子機器︵iPhone、iPad、Apple TV︶、アプリマーケット︵App Store︶、コンテンツマーケット︵iTunes Store︶をすべてAppleが設計、開発している。同社はSoCやディスプレイ・デバイスなど基幹部品と機器の組み立てを外注しているが、iOS搭載デバイスの価値のほとんどはAppleという一つの会社が押さえている。その収益モデルは強固だ。水平分業のAndroid搭載デバイス、進化と競争が持ち味
水平分業モデルは市場の成長と技術の進化を促す。Android搭載デバイスは、多様性を増しつつある。複数のメーカー、ソフトウエア・ベンダー、通信事業者が、それぞれ得意分野にフォーカスして付加価値を生み出そうとしている。Androidのエコシステムには、あちこちに大きな隙間が空いている。どのようにしてAndroidエコシステムに﹁食い込むか﹂が各社の課題だ。 GoogleはAndroidのエコシステムで大きな影響力を持ってはいるが、その支配力は限定的である。具体的には、以下のようになる。 (1) Android OSに開発投資し、頻繁にアップデートすることで、Android搭載デバイス全体の世代交代を促進する。 (2) Googleサービスを利用できる端末の仕様の定義︵CTS︶を行うことで、ゆるやかな形でAndroid搭載デバイスを定義する。CTSを通っていないデバイスにはAndroid Marketを載せることができないため、Androidの魅力の大きな部分を欠くことになる。ただし、CTSを通らないAndroid端末も数多く市場に出回っている。 (3)アプリマーケットAndroid Marketの運営や、開発者支援︵Google IOの開催など︶により、Google社外の開発者の活性化を図っている。 Androidエコシステムの収益モデルの中でのGoogleの﹁取り分﹂は控えめである。Android OSはオープンソースなので、ライセンス料は発生しない。Android Marketの売り上げの中、Googleの取り分は5%である︵開発者が70%、通信事業者が25%︶。見方を変えれば、iOS搭載デバイスのビジネスに比べ、Androidビジネスでは参加者の﹁取り分﹂が多いのだ。 ただし、GoogleにとってAndroidが単なる﹁持ち出し﹂になっているかといえば、そうではない。Androidの利用者が増えることで、Googleのサービスへのトラフィックは伸びており、またモバイル広告収入も伸びている。Googleを始めIT大手企業の間では、今後のインターネット・アクセスの主流はモバイルになる、という見方で一致している。Androidにより、モバイル・インターネット分野で影響力を持つことは、Googleのビジネスには大きくプラスになるのだ。Androidのエコシステムには﹁取り分﹂が多く残されている
Android分野では、多くの半導体メーカー、機器メーカー、通信事業者などが、それぞれの付加価値を出そうと努力を続けている。その理由の一つは、Androidが最新のモバイルデバイスを作る素材として最初の候補であることだが、もう一つは、Androidのエコシステムにはまだ﹁取り分﹂が残されていると多くの企業が考えていることがある。 こうしたエコシステムの参入余地を目指して、多くの企業が動いている。筆者の目に止まった中からいくつかを挙げてみる。 (1) 米半導体メーカーNVIDIAは、自社GPUを組み込んだSoC︵System on a Chip︶のTegra2をAndroid端末向けに売り込み、MotorolaのXOOMを始め多くの機種で採用されている。 (2) 通信事業者のKDDIは、自社の回線交換網をIP電話のサービスSkypeで使えるようにした﹁Skype au﹂サービスを提供している。 (3) 日本通信は、SIMロックフリーのAndroid端末を輸入して自社のIP電話サービスを組み込んで発売している。同社はMVNOとしてNTTドコモの回線を借りて自社ビジネスを構築している。 (4)セキュリティ・ソフト・ベンダーのシマンテックは、3月3日にAndroid向けセキュリティソフト﹁ノートン モバイルセキュリティ﹂を発売した。スマートフォン上のマルウェア対策、SPAM対策、紛失・盗難対策の機能を備えるソフトである。発表会場で、シマンテック側は﹁iOS向けビジネスも検討しているが、iOS向けに価値を打ち出すことは難しい。まずAndroidに注力する﹂と説明している。 ビジネスのレイヤーや、ビジネスの規模はさまざまだ。Androidのエコシステムは、参入する企業の﹁身の丈﹂に合わせ、それぞれのビジネスの可能性を与えている。参入したプレイヤーがすべて生き残るかといえば、その保証はない。とはいえ、モバイルインターネットの時代の新たなビジネスモデルはAndroidの周辺から出てくる可能性が大きいのではないかと筆者は考えている。 ︵著者の星 暁雄︵ほし あきお︶氏はフリーランスITジャーナリスト。IT分野で長年にわたり編集・取材・執筆活動に従事。97年から02年まで﹃日経Javaレビュー﹄編集長。08年にインターネット・サービス﹁コモンズ・マーカー﹂を開発。イノベーティブなソフトウエア全般と、新たな時代のメディアの姿に関心を持つ。 Androidに取り組む開発者の動向は要注目だと考えている︶あわせて読みたい
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