Windows 8 — 初心者にもパワーユーザーにも期待はずれのユーザビリティ
見えない機能、低下した発見しやすさ、二重の環境による認知的な負荷、シングルウィンドウのUIからくる能力の低下、低い情報密度。ひどいものだ。
先日発売されたWindows 8とSurfaceタブレットでMicrosoftはユーザーインタフェース戦略を転換した。フィーチャークリープ訳注と言えるくらい、強力なコマンドを重視するGatesが主導した伝統的GUIスタイルからMicrosoftは軟化したが、今度は必要な機能を隠しながら、大きな色とりどりのタイルで画面を覆いつくし、ユーザビリティを妨げている︵訳注‥ フィーチャークリープとは、電子機器やソフトウェアの開発において、機能の追加が何度も行われた結果、複雑で使いづらいものになってしまうこと︶。
この新しいデザインがタッチスクリーンでの利用︵そこではターゲットが大きいほうが有益である︶に最適化されているのは明らかだが、Microsoftはこのスタイルを自分達の昔からのPCユーザーにも強いている。なぜならば、Windows 8全体にタブレット感覚があふれているからである。
実際のユーザーが現実のタスクを行う際、これはどの程度機能するのだろうか。それを調べるため、PCを使い慣れている12人のユーザーに依頼し、通常のコンピューターとMicrosoftが新しく出したSurface RTタブレットの両方で、Windows 8をテストしてもらった。
![Surface RTのWindows 8の設定メニューの下端。 Surface RTのWindows 8の設定メニューの下端。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-settings-menu.png)
Surface RTのWindows 8の設定メニューの下端。
クリックできるのはどこだろうか。どれもフラットだし、実際のところ、﹁Change PC settings︵‥PCの設定を変更する︶﹂という文字も、ただのアイコンのグループのラベルのようで、クリックできるコマンドには見えない。結果として、テストではユーザーの多くが隠れている機能の1つにアクセスしようとするとき、このコマンドをクリックしなかった。
︵そのタスクでは、ユーザーにスタート画面の背景色を変更するように依頼したが、さらなる問題として、コマンドのラベル自体が一部のユーザーに誤解される情報の匂いを放っていた。つまり、彼らはSurfaceはタブレットであって、﹁PC﹂ではないと思ったのである︶。
また我々が目にした問題には、タブ選択の識別しにくさや、クリック可能なタブというコンセプト自体の知覚されたアフォーダンスの貧弱さから、タブの付いたGUIコンポーネントをユーザーが見落としたり誤解するというのもあった。
アイコンはフラットで単色であり、大ざっぱに簡素化されている。これがAppleのiOSにおける、はっきりと触れるとわかる、色鮮やかで、極めて詳細な﹁skeuomorphic︵‥質感や特徴など現実世界のモチーフを模倣した︶﹂デザインスタイルに対する反撃であることは間違いない。今回に限っては、妥協したほうが極端に走るよりは良かったのではないかと思う。今回、ユーザーがアイコンを使うことができなかったり、アイコンの意味が理解できなかったりする様子をよく目にしたからである。
アイコンとは、 (a) ユーザーがそのシステムを解釈することを助け、(b) クリックを呼び込むものでなければならない。Win8のアイコンはそうではないのである。
![Bingファイナンス(上)とLos Angeles Times(下)のSurfaceタブレット用アプリのスタート画面。 Bingファイナンス(上)とLos Angeles Times(下)のSurfaceタブレット用アプリのスタート画面。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-low-info-density-apps.jpg)
Bingファイナンス︵上︶とLos Angeles Times︵ 下︶のSurfaceタブレット用アプリのスタート画面。
かなり大きな10.6インチタブレット上で走らせているにもかかわらず、Bingファイナンスが初期画面で表示した記事は1本︵と3市場の相場︶だけだった。Los Angeles Timesもそれよりもいいというわけでもない。というのもこの新聞のアプリの初期画面には3本の見出しと1本の広告しか載せられないからだ。実際には、トップ記事の見出しすら全部表示されていないし、記事の要約のための空間は7語分しかない。頼むよ、1366 × 768ピクセルに収められるニュースはこれっぽっちじゃないだろう。
![タブレットモードブラウザでのwww.latimes.com。 タブレットモードブラウザでのwww.latimes.com。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-latimes-browser.jpg)
タブレットモードブラウザでのwww.latimes.com。
Internet Explorerで新聞のウェブサイトを訪問すると、得られる情報はずっと増える。しかし、Surface︵やフルサイズコンピューターの多く︶で、そうしたサイトがワイドスクリーンの縦横比が提供する土地を有効活用してないのは残念なことである。このウェブサイトではMetroのアプリによって提供された3本の記事と同じ空間に、9本の記事︵と3本の広告︶を表示している。そのうえ、トップ記事の要約は全文載っている。
そう、大きな写真というのはいい。ゆったりしたレイアウトがいいというのもその通りだ。しかし、画面に﹁データインク﹂をもう少し増やしたいからといって、Edward Tufteの熱狂的ファンになる必要はない。
Surfaceの情報密度が信じられないほど低いことで、入手可能な情報のささやかな概要を見ようとするだけで、ユーザーはひっきりなしにスクロールしなければならなくなっている。
しかし、Surfaceで水平方向にスクロールすることをユーザーは気にしないこともわかった。これはデスクトップコンピューターでの水平方向のスクロールがウェブサイトにユーザビリティ上の惨禍をもたらすことを考えると興味深い。それでも、スクロールが多すぎるということもあるだろうし、ユーザーは情報密度の低い大きなかたまりを読み進んだりはしないだろう。
![(左上から時計回りに)Urbanspoon、Los Angeles Times、Newegg、Epicuriousのライブタイル。 (左上から時計回りに)Urbanspoon、Los Angeles Times、Newegg、Epicuriousのライブタイル。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-live-tiles.png)
︵左上から時計回りに︶Urbanspoon、Los Angele s Times、Newegg、Epicuriousのライブタイル。
Neweggはタイルに名前全体が出ている唯一のアプリである。参加者には他のアプリも利用するように言ったが、彼らはそれらを見つけられなかった。これはアプリケーションが数個しかインストールされていない新しいタブレットでの話である。他のタブレットやモバイル機器のユーザーテストからわかったのは、ユーザーはすぐにアプリケーションを無数にため込んでしまうということだが、彼らはそのうちのほとんどを利用しないし、そのことを覚えてすらいないものである。スタティックなアイコンのものですら、そうなのである。
新たな写真など、興味深いコンテンツのプレビューをタイル内で次々に見せることによって、ユーザーを引き付けるというのがここでの理屈であるのは間違いない。しかし、その結果、Surfaceのスタート画面はちらちらし続けることになり、大勢の客引きがあなたにむかっていっせいに叫んでいるかのような制御不能な環境になってしまっている。
目次
(一)二重のデスクトップ = 認知オーバーヘッドと増加する記憶負荷 (二)ウィンドウが複数ないこと = 複雑なタスクに対する記憶の過負荷 (三)フラットなスタイルは発見しやすさを損なう (四)低い情報密度 (五)逆効果に出た、ライブすぎるタイル (六)チャームは見えない汎用コマンド (七)エラーを起こしやすいジェスチャー (八)Windows 8のUX‥ タブレットでは貧弱だが、PCでは悲惨 (九)Microsoftが嫌いなわけではない (十)編集部注二重のデスクトップ = 認知オーバーヘッドと増加する記憶負荷
ローマ神ヤヌスや、ジキル博士とハイド氏、バットマンの宿敵のトゥーフェイスに至るまで、人間の文化は二重性というものに引き付けられるものである。今やこのリストにはWindows 8を付け加えてもいいだろう。この製品はタブレット志向のスタート画面とPC志向のデスクトップ画面という2つの顔をユーザーに対し、見せるからである。 残念ながら、1つの機器に2つの環境というのはいくつかの理由でユーザビリティ上の問題を生じさせる‥ ●ユーザーは各機能に対して何の機能がどこに行けばあるかを学び、覚えておく必要がある。 ●ウェブブラウザが機器の両方の領域で起動しているときには、ユーザーはその時々に開いているウェブページの一部だけを見る︵そして思い出す︶ことになる。 ●環境を切り替えることによって、複数の機能を利用するというインタラクションの負担が増える。 ●2つの環境は別々に動くので、その結果、ユーザーエクスペリエンスの一貫性がなくなる。ウィンドウが複数ないこと = 複雑なタスクに対する記憶の過負荷
パワーユーザーにとっての最悪の面の1つが、製品の名前そのものが正しくなくなっていることだ。﹁Windows﹂は画面上の複数のウィンドウをもはやサポートしないからである。Win8には画面の小さな部分に2つめの領域を一時的に表示するというオプションが一応はある。しかし、テストユーザーのうちの誰もこの作業を成功させることはできなかった。また、メインのUIはユーザーが1つのウィンドウしか利用できないようにしている。したがって、この製品は﹁Microsoft Window﹂に名前を変えるべきである。 ウィンドウが1つだけという戦略はタブレットではうまく機能するし、携帯電話の小さな画面では必要条件となる。しかし、大きなモニターでたくさんのアプリケーションやウェブサイトをいっせいに走らせることのできる高性能PCのユーザーにとっては、同時に複数のウィンドウが見られることから得られるメリットは間違いなくある。実際、最も重要なウェブのユースケースには複数のウェブページを収集、比較して、選び出すというのがある。また、一度にたくさんのものを見るための空間があるなら、こうしたタスクは複数のウィンドウを利用して行ったほうがずっと容易である。 ユーザーがいくつかのウィンドウを同時に閲覧できないとき、別のウィンドウがアクティブな間、彼らは前のウィンドウでの情報を短期記憶に留めておかなければならない。このことが問題なのは2つ理由がある。1つは人の短期記憶がよく知られているように貧弱であること、そして、2つめには、既に開いているものを単にちらっと見るかわりに、ウィンドウを操作しなければならないということ自体が、ユーザーの認知的リソースにさらに大きな負担をかけるからである。フラットなスタイルは発見しやすさを損なう
Windows 8のUIはかつて﹁Metro﹂スタイルと呼ばれ、今度は﹁Modern UI﹂と名付けられたスタイルの、完全にフラットなものである。微妙に影を付けることで、︵残りの部分より浮き上がって見えて︶何がクリックできるか、︵ページ表面よりくぼんで見えて︶どこに入力できるかを示す、擬似3Dモデルやライティングモデルはそこには存在しない。 Metro/Modern UIはタイポグラフィが過去のUIスタイルより洗練されているし、色鮮やかなタイルは新鮮だとは思う。 しかし、新しいスタイルは従来的なGUIとは異なる見た目にするためにユーザビリティを犠牲にしている。GUIのデザイナーたちがMetroデザインでやっている以上に、オブジェクトを詳細でクリック可能なものに見せようとしていたのには訳があるのである。例として、この設定メニューを見てみよう‥![Surface RTのWindows 8の設定メニューの下端。 Surface RTのWindows 8の設定メニューの下端。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-settings-menu.png)
低い情報密度
﹁modern UIスタイル﹂のためのデザインに与えられた指示とは、情報密度の並外れて低いアプリケーションを作り出すこと、だったかのようにさえ思える。例えば、次のスクリーンショットを見てみよう‥![Bingファイナンス(上)とLos Angeles Times(下)のSurfaceタブレット用アプリのスタート画面。 Bingファイナンス(上)とLos Angeles Times(下)のSurfaceタブレット用アプリのスタート画面。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-low-info-density-apps.jpg)
![タブレットモードブラウザでのwww.latimes.com。 タブレットモードブラウザでのwww.latimes.com。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-latimes-browser.jpg)
逆効果に出た、ライブすぎるタイル
ライブタイルはWindows 8におけるUIの進歩の1つである。動きのないいつも同じ状態のアイコンで常にアプリを表示するかわりに、アプリからの現時点の情報をライブタイルはまとめて伝えてくれる。これは賢く使うと役に立つ。良い例としては‥ ●現時点の︵あるいは予想される︶気温と降水量を表示する天気アプリ ●最新の受信メッセージの件名を表示するメールアプリ ●次の約束を表示するカレンダーアプリ ●現時点の相場水準を表示する株アプリ 残念ながら、アプリケーションのデザイナーがたちどころに調子に乗り、タイルをライブな︵生き生きした︶ものから、エネルギッシュでハイテンションなものへと変えてしまったわけではない。それを説明するために … キャプションを読まずに、以下の4個のタイルが示しているのは何のアプリかをさっと考えてみて欲しい。![(左上から時計回りに)Urbanspoon、Los Angeles Times、Newegg、Epicuriousのライブタイル。 (左上から時計回りに)Urbanspoon、Los Angeles Times、Newegg、Epicuriousのライブタイル。](https://u-site.jp/wp-content/uploads/2012/12/win8-live-tiles.png)