フリーソフトウェアのリーダーは団結する
著者: Bruce Perens
日本語訳: yomoyomo、八木都志郎
以下の文章は、Bruce Perens による Free Software Leaders Stand Together の日本語訳である。
マイクロソフトの上級副社長 Craig Mundie がニューヨーク大学のビジネススクールで行った講演において、オープンソース企業のビジネスモデルや、GNU GPL を攻撃したことについて、Perens が反論し、フリーソフトウェア/オープンソース界の錚錚たる面々が署名した文章である。
本翻訳は、yomoyomo の訳に八木都志郎さんの訳文をマージし、その後 dynamis さんの訳文も参考にし、訳を大きく改訂した。また、それ以外にも、結城浩さんから多数の誤記・誤訳の訂正をいただいた。
Craig Mundie の講演は今となっては旧聞に属するので、これが決定的な文章になってくれればと思う。多くのフリーソフトウェアのエヴァンジェリスト達が、非公式の議論を行う中で、マイクロソフトへの適切な返答を行うのに団結すべきだと感じた。Mundie の講演により、マイクロソフトの戦略が、何もかも台無しにするまで、我々を分断し、なおかつ個別に攻撃しようとするものであることは明らかである。かくして、彼らは今回 GPL に狙いをつけた。我々が各グループ、プロジェクトを代表しようというのではないが、オープンソース/フリーソフトウェア界の多くの著名人が、このメッセージに署名した。我々はこうしたことに慣れてないので時間がかかったが、次回はもっとうまくやれるはずである。だから、このメッセージの最後にある署名のところに注目していただきたい。我々は団結し、お互いを守り合うつもりだ。
Bruce Perens
我々は、オープンソースとフリーソフトウェアの新たな勝利に注目している。というのも、我々がマイクロソフトにとって、とても容易ならざる競争相手になったため、マイクロソフトの幹部らは、彼らが感じている危機感を公に表明している。しかし、我々がマイクロソフトに見せつけた唯一の脅威は、マイクロソフトの独占行使が終わりにきているということだけである。今や個人から IBM やHPのような多国籍企業までがそうしているように、対等なパートナーという立場でマイクロソフトが参入するのは歓迎される。けれども、我々と対等の立場になることは、マイクロソフトが望むところではない。だから連中は、見るのはいいけど、いじるのはダメで、全てをコントロールするのは俺達だ、というシステムの共有ソースを発表した。
マイクロソフトは、オープンソースと、経営の破綻したドットコム・ビジネスモデルとの虚偽の比較を行っている。多分彼らは、フリーソフトウェアという用語を間違って理解している。フリーというのが自由を指していて、価格のことではないことを忘れてはいけない。ドットコム企業は、市場シェアを確立しようとして、目玉となる商品やサービスを無料で与え、失敗してしまった。対照的に、オープンソースのビジネスモデルは、大勢の協力者にソフトウェアを配布することにより、ソフトウェア開発やメンテナンスにかかるコストを減らそうとする。
オープンソース・モデルの成功は、著作権保持者がその支配を緩めるかわりに、より多くのよりよい協力を得たおかげである。開発者は、自分たちのソフトウェアを、同じ条件の下で、自由に再配布したり、修正することを許可する。
あるビジネスに不可欠なソフトウェアはたくさんあるけれども、そのビジネスに関して、そのソフトウェアが競争相手との差別化を行うわけではない。オープンソース・モデルを十分に取り入れたことのない企業でさえ、経費節減になるので、この差別化するところのないソフトウェアのために、フリーソフトウェアのプロジェクトに協力するのは、正しいことだと言える。そしてそうした協力が、しばしば圧倒的な成功につながっている。例えば、市場で優勢を誇る Apache ウェブサーバを作るプロジェクトは、ソフトウェアの中から、それぞれが自分のビジネスで必要としている部分をメンテナンスしていくという作業をいっしょにやっていこうと取り決めたユーザー・グループによって始められた。
共同作業による効率性こそがユーザーにとっての最大の利益となる。しかし、フリーソフトウェアは、ユーザが自分達が利用するソフトウェアを、自分達でコントロールすることになるので、それだけで直接的にユーザの利益にもなる。オープンソース・ベンダと取引する場合も、ベンダはユーザを支配しないのだ。
非常にわずかな資金で、GNU/Linux システムは、インターネット・サーバから組み込み機器に至るまで、多くの主要市場において、重要な存在になった。我々の GUI デスクトップ・プロジェクトは、ゼロから始まってたった四年のうちに、他と比肩するか、あるいはもっと優れたものになって、ソフトウェア業界を仰天させた。Sun やHPといったワークステーションを製造している業者は、自分たちで共同開発したものから、我々のデスクトップに乗り換えることを選択したが、これは我々の成果の方が優れていたからである。フリーソフトウェアの周辺に、一つの業界がまるごとできつつあり、それは市場の不況にかかわらず、急速に成長している。Red Hat のようなソフトウェア会社の成功、Dell や IBM などのベンダにもたらされる利益は、フリーソフトウェアがビジネス向けでないなんてことがまったく言えないことを実証している。
マイクロソフトが悪口を言うために名指ししたフリーソフトウェアのライセンスが、GNU 一般公衆使用許諾書、GNU GPL である。このライセンスは、コンピュータの対等共有と同義である。しかし、マイクロソフトが主張するように、GPL のプログラムを利用する企業が、そこのソフトウェアやデータをすべてフリーにすることが法的に義務付けられるということにはならない。我々は、新たなプログラムの構成部分として再利用できるように、すべての GPL ソフトウェアをソース形式で入手できるようにしている。これこそが、我々がこれだけ優れたソフトウェアを、とてもすばやく作ることができた秘訣なのだ。
プログラムに GPL のソースコードを組みこむことを選択するなら、プログラム全体をフリーソフトウェアにする必要がある。これが我々のコードとの等価交換であって、コミュニティによる改良の恩恵を継続して受けるための条件でもある。けれども、GPL が法的に適用を求められるのは、GPL の下にあるコードと結合するプログラムだけであって、同じシステムの別のプログラムには適用されないし、プログラムが操作するデータファイルにも適用されない。
マイクロソフトは GPL 違反の話を持ち出すが、それは注意をそらすための古典的な手口だ。もっとたくさんの人達が、自分たちがマイクロソフトのライセンスに抵触していることに気付いている。というのもマイクロソフトが、GPL のように複製、修正、そして再配布を許可しないからだ。マイクロソフトのライセンスに違反すると、民事訴訟に巻き込まれ、懲役をくらうことにもなる。たまたま GPL に違反してしまっても、簡単に修正できるし、法廷に持ち込まれることは滅多にない。
マイクロソフトが脅威に感じているのは、GPL の対等共有という特徴である。なぜなら、それが彼らの﹁取り入れて拡張﹂戦略を無にしてしまうからだ。マイクロソフトは、オープンなプロジェクトや規格の成果を取りこみ、クローズドなソースに互換性のないマイクロソフト独自の機能を入れこむことにより、市場支配を維持しようとしている。例えば、サーバに互換性のない機能を入れこむと、それと同じような互換性のないクライアントが必要になり、ユーザは﹁アップグレード﹂することを強いられるわけだ。マイクロソフトは、このような意図的に互換性を持たせない戦略でもって、自分たちのやり方を市場に強制している。しかし、もしマイクロソフトが GPL ソフトウェアを﹁取り入れて拡張﹂しようとすれば、彼らは互換性のない﹁拡張﹂をやるたびに、それを競争相手に公開し、入手できるようにしなければならなくなる。このようにして、マイクロソフトが独占維持するのに用いている戦略にとって、GPL は脅威となっている。
マイクロソフトは、フリーソフトウェアは互換性のない﹁コード分裂﹂を助長すると主張しているが、マイクロソフトこそ、非互換性を実際に押し進めている。彼らは故意に新バージョンを旧バージョンと非互換にし、ユーザに毎回アップグレード版の購入を強いている。Word ファイルフォーマットが変わったせいで、一体何度ユーザは Office をアップグレードしなければならなかっただろう? マイクロソフトは、我々のソフトウェアが安全でないと主張するが、セキュリティの専門家は、重要なセキュリティ機能に関しては、フリーソフトウェアでないと信頼すべきでないと言っている。ユーザをこそこそ詮索したり、ウィルスの攻撃に脆弱だったり、こっそり﹁裏口﹂を仕込んでいるかもしれないので有名なのは、マイクロソフトのプログラムじゃないか。
マイクロソフトの共有ソース・プログラムは、オープンソース・モデルの公開性、コミュニティの参加、そして革新性による多くの恩恵の存在を認めている。しかし、そのモデルの最も重要な要素であり、他のすべてのものを動かすのは、自由なのだ。消費者と開発者を閉じ込める戦略を回避することを目指して作られているライセンスを攻撃することで、彼らはフリーソフトウェアを作るのに参加する人達と利益を共有することなく、フリーソフトウェアの恩恵を得ることを望んでいる。
我々はマイクロソフトに、オープンソースのソフトウェア開発のパラダイムを取り入れるよう方針変更することを強くお勧めする。一方的な共有を求めるのを止め、オープンソースの恩恵である対等共有を行う義務を受け入れることだ。それがビジネスと両立することを認めてもらいたい。
フリーソフトウェアは、革新と公正な競争を促進させるソフトウェアの共通基盤を築き上げるための、優れた方法なのである。マイクロソフトよ、今こそあなた方も我々に加わるべきときなのだ。
Bruce Perens、主著‥﹁オープンソースの定義﹂の作者
共同署名者‥
Richard Stallman、フリーソフトウェア財団
Eric Raymond、オープンソース・イニシアティブ
Linus Torvalds、Linux カーネルの作者
Miguel de Icaza、GNOME GUI デスクトップ・プロジェクト
Larry Wall、Perl 言語の作者
Guido van Rossum、Python 言語の作者
Tim O'Reilly、出版者
Bob Young、Red Hat の共同創業者
Larry Augustin、VA Linux Systems の CEO
この文書の原本は、http://perens.com/Articles/StandTogether.html で見ることができる。この文書を、公開するにあたって必要があればフォーマットを変えたり翻訳して、複製、再発行することが許可されるが、我々の主張は変えないように。プレスが連絡するための情報は、perens.com を見るように。この文書をまとめる作業を行ってくれた Dave Edwards に感謝する。
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初出公開: 2001年05月19日、 最終更新日: 2002年05月14日
著者: Bruce Perens
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)、八木都志郎 (E-mail: yagi at lovemorgue dot org)