『ゼルダの伝説』はどうして「JRPG」とはされないのか
JRPGはどうなるべきなのか?RPGを愛する海外デベロッパーに聞く、JRPGの現在地と未来︵AUTOMATONさん︶ ﹁JRPG﹂という括りを適切だと思ったことが正直一度もない︵不倒城さん︶ JRPGとは少年ジャンプである︵最終防衛ライン3さん︶
﹁JRPGとはどうなるべきかなのか?﹂という記事が書かれたことで、﹁そもそもJRPGって何だ?﹂という議論が始まりました。 最初の記事では﹁この記事ではJRPGを﹁日本のRPG﹂を指す言葉であると解釈したい﹂と仮の定義を作ってそこで話を始めたのだけど、不倒城さんでは﹁そんな雑な定義で一くくりにしないで欲しい﹂とツッコミが入り、それに更に最終防衛ライン3さんは﹁JRPGという言葉は海外の言葉なので“海外で発売されている日本のRPG”のことだろう﹂というツッコミが入り―――
んで、こういう議論が起こるたびに私がいつも思うのは、﹁どうして﹃ゼルダ﹄シリーズはJRPGとして考えられていないんだろう?﹂ということです。 ﹃ゼルダの伝説﹄シリーズを開発しているのは基本的には任天堂で、任天堂というのは日本の会社です。生みの親とも言える宮本茂さんも、それを引き継いだ青沼英二さんも、最新作のディレクターである藤林秀麿さんも日本人ですよね。海外の人だって宮本さんや青沼さんをご存知でしょうから、﹁﹃ゼルダの伝説﹄シリーズは日本のゲームだ﹂と分かっていると思うんです。
海外での売上も高く、﹃ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス﹄はGC版+Wii版合わせて全世界で約885万本の売上だったというアナウンスがありました。国内の売上は60~70万本あたりだったはずなので、海外で800万本以上を売り上げている計算になります。 これは全世界で約972万本を売り上げた﹃ファイナルファンタジーVII﹄にも引けを取らない数字ですし、﹃FFVII﹄は国内で300万本以上を売り上げているので、﹃FF﹄以上に﹃ゼルダ﹄の方が海外比率は高いと言えます。﹁海外では﹃ゼルダ﹄の知名度が低い﹂ということは絶対にありえません。
﹁日本の会社が作ったゲーム﹂﹁海外での知名度は抜群﹂と、﹃ゼルダの伝説﹄も﹁JRPG﹂の定義を十分に満たしているように私は思うのです。 しかし、最初のAUTOMATONさんでインタビューされた誰一人として﹃ゼルダの伝説﹄シリーズの名前を挙げていないし、不倒城さんは﹁ゼルダ﹂の名前も挙げていますが、最終防衛ライン3さんは﹃ブレス オブ ザ ワイルド﹄を﹁日本独自の文化を元ネタにしている﹂と言いつつ﹁ゼルダはJRPGなのか﹂の部分には敢えて触れていないかのような書きっぷりです。売上としては引けを取らないのに、﹁JRPG﹂という言葉で語られるゲームは大体﹃FF﹄シリーズであって﹃ゼルダ﹄シリーズではないのです。
﹁いやいや、﹃ゼルダ﹄は戦闘がコマンド制じゃなくてアクションだからRPGじゃないでしょ?﹂と言います? それだと海外製RPGの代表作である﹃スカイリム﹄とかもRPGではなくなってしまうじゃないですか。﹃スカイリム﹄を海外製RPGの代表に据えるのなら、日本製RPGの代表に﹃ゼルダの伝説﹄を据えても何もおかしくないと思うんですよ。
﹁﹃ゼルダ﹄には“経験値”や“レベル”の概念がないからRPGではないでしょう?﹂と思われるかも知れませんが、﹃ファイナルファンタジーII﹄や﹃ロマンシング サ・ガ﹄のように成長を“経験値”や“レベル”ではない他のものに置き換えたRPGはたくさんあるでしょう。
語られざるもう一つのRPG史――ゼルダの伝説をアクションRPG黎明期が生むまで︻ゲーム語りの基礎教養‥第三回︼
これは多根清史さんによるRPG黎明期の歴史語りです。 ﹃ドラクエ﹄が生まれるまでの第一回・第二回も面白いですが、今日は﹃ゼルダ﹄の話なので﹁﹃ゼルダ﹄が生まれるまでのアクションRPGの歴史﹂である第三回を読んでください。
よく﹁﹃ゼルダ﹄の元ネタは﹃ハイドライド﹄だ﹂と言われるのですが、個人的には﹃ドルアーガの塔﹄の方が強く影響を与えているんじゃないかと思っています。 というのも、過去のインタビューを読むと宮本茂さんは当時の﹁ナムコ﹂をものすごく意識していて、尊敬していて、対抗意識を持っていたように思えるんですね。有名なのは﹃パックランド﹄と﹃スーパーマリオブラザーズ﹄の話で、その話は飯野賢治さんの﹃スーパーヒットゲーム学﹄に収録されています。
スーパーヒットゲーム学
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<以下、引用> 飯野﹁なるほどね。でも、﹃スーパーマリオ﹄の登場は、すごく突然な感じがしたんだけど。ゲームの進化の中で突然あの世界は︵笑︶﹂
宮本﹁﹃パックランド﹄がありました。 それまでにジャンプゲームというのをつくってましたでしょ︵※ ﹃ドンキーコング﹄や﹃マリオブラザーズ﹄のこと。その後、たくさんの会社から後追いでジャンプゲームが発売された︶。僕はナムコシンパで、︵他社とちがって後追いで︶ジャンプゲームをやってこないナムコにすごい敬意を払っていたんです。僕らがつくっているジャンプゲームをいじってこない。﹂
<中略>
宮本﹁そんな時にナムコから﹃パックランド﹄が出てきた。ゲームセンターで、僕、東京に行ったときに﹃パックランド﹄が置いてあって、ナムコがジャンプゲームに手を出してくるのかと、それなら俺がやってやろうじゃないかと。それが︵﹃スーパーマリオブラザーズ﹄の︶きっかけ。﹂
飯野﹁そういえば、僕もナムコが好きでしたね。﹂
宮本﹁まあ、尊敬するゲームというとナムコの﹃パックマン﹄やからね。<中略> だから、詳しい人は﹃パックランド﹄の真似をしましたみたいに言う人もいるけれども、﹃パックランド﹄とは全然違うゲームなんですよ。でも、ナムコがあれをやってきたから、僕のマリオは動き出したというのはありますね。﹂ </ここまで> ※ 改行や注釈など、一部引用者が手を加えました
﹃ドルアーガの塔﹄と﹃ゼルダの伝説﹄は﹁成長﹂を﹁アイテムの取得﹂で置き換えているという共通点があります。﹃ゼルダの伝説﹄で最大LIFEを上げるためには﹁ハートの器﹂を手に入れて、攻撃力を上げるためには﹁強力な剣﹂を手に入れる必要があります。 “ザコ敵との戦闘”で成長するワケではないのは確かに﹃ドラクエ﹄とも﹃FF﹄とも﹃ロマサガ﹄ともちがうのですが、﹃ゼルダの伝説﹄にも﹁成長﹂がありますし、その方法が違うだけで﹁RPGではない﹂と言うのはRPGを﹁﹃ドラクエ﹄的なゲーム﹂として決めつけすぎでしょう。
﹁そもそも任天堂自身が﹃ゼルダ﹄をRPGと呼んでいないよね?﹂ は、ハイ……その通りです︵笑︶。 任天堂は﹃ゼルダ﹄シリーズを基本的には﹁アクションアドベンチャー﹂というジャンルで紹介しているのですね。“経験値”や“レベル”のある﹃リンクの冒険﹄ですら。だから、私は﹃ゼルダ﹄シリーズを﹁アクションRPG﹂と紹介している人を見ると、﹁いやいや、公式にはアクションアドベンチャーなんですよ﹂とツッコミたくなるくらいで、さっきまでと言っていることが正反対だと自分でも思うのですが︵笑︶。
ただ、この﹁JRPG﹂問題はちょっと違います。 ﹁JRPG﹂というのは他称です。﹃ファイナルファンタジー﹄や﹃ペルソナ﹄が﹁俺が!俺達がJRPGだ!﹂と名乗っているのではなく、主に西洋の人達が﹁西洋のRPG﹂ではない﹁日本のRPG﹂を区分するために勝手に読んでいる言葉です。そして、そこには﹁蔑称﹂のニュアンスも含まれていることは間違いないでしょう。
﹁戦闘はコマンド制で﹂﹁ターン制で﹂﹁移動と戦闘はエンカウントで切り替わって﹂﹁ストーリーが一本道で﹂﹁それを語るムービーが頻繁に流れ﹂﹁メインキャラクターはアニメ的な美男美女な若者で﹂といった要素を﹁JRPG的なもの﹂だと定義づけて、それで﹁JRPGは時代遅れだ﹂と――――冒頭で紹介した記事でもインタビューでそう答えている人がいましたし、恐らく日本でも﹁JRPG﹂で語られる大体のイメージはこんなカンジじゃないかと思います。
しかし、それは順序が逆じゃないのかって思うんですね。 ﹁JRPGは時代遅れだ﹂ではなくて、﹁時代遅れなゲームをJRPGと呼んでいる﹂だけじゃないかと。
この手の話題が出るたんびに言ってることなんだけど、JRPGの抱える問題を解決したゲームはJPRGというジャンルで括られなくなるので、JPRGの問題は永遠に解決しない / “「JRPG」という括りを適切だと思ったことが正直一度もな…” https://t.co/HswDZHCNcO
まさに。
例えば﹃ゼルダの伝説﹄シリーズは、上の﹁JRPGの定義﹂の多くを克服しているシリーズです。戦闘はアクションだし、ターン制でもないし、敵との戦闘はシームレスに始まるし、ストーリーはかつては一本道だったけど﹃ブレス オブ ザ ワイルド﹄で自由な順番で攻略できるようになったし、ムービーは確かに流れるしキャラクターもリンクやゼルダをはじめとした﹁美男美女な若者﹂なのでその点では﹁JRPG的﹂だと思うのですが。
﹁JRPGは時代遅れだ!﹂﹁どうすればJRPGはかつてのような輝きを取り戻すのか!﹂という議論の時に、﹃ゼルダの伝説﹄シリーズはガン無視されるんですね。だって、現在進行形で全世界で大ヒットしちゃっているし……
もっとヒドイ例は﹃ファイナルファンタジーXV﹄ですよ! ﹁JRPG﹂の代表格のように言われていた﹃FF﹄シリーズですが、最新作では時代に合わせて戦闘をアクションにしたり、オープンワールドにしたりした結果、冒頭紹介したインタビュー記事で﹁﹃FINAL FANTASY XV﹄はRPGというカテゴリーから離れてしまいましたが、それでも素晴らしいゲームだと思いましたよ。﹂って言われているんですよ!
﹁JRPG﹂の代表格のように言われていたシリーズが時代に合わせた最新作を作って、それが全世界的に大ヒットすると、それはもう時代遅れではないから﹁JRPGではない﹂と言われてしまうという!
﹃ゼルダの伝説 ブレス オブ ワイルド﹄も﹃ファイナルファンタジーXV﹄も日本発のゲームで全世界的に大ヒットしているのに、それでもまだ﹁どうしてJRPGは時代遅れになってしまったのか﹂﹁今後JRPGはどうなってしまうのか﹂ですって!
じゃーじゃーじゃーじゃー、百万歩譲って﹁JRPGの定義から逸脱せずにそれでも海外で大ヒットする日本発のRPGはないのか﹂という話にしますか。 つまり、﹃ゼルダ﹄のように﹁戦闘がアクション﹂ではなくてコマンド選択方式で、ターン制で、シームレスじゃなくてエンカウントで移動と戦闘が切り替わって、ストーリーが一本道で、キャラクターがアニメ的な美男美女な若者ばかりのゲームで、それで全世界的に大ヒットする日本発のRPGが出てこなければ﹁JRPGのシステムは時代遅れになってしまった﹂と言えなくもないと考えられなくもない気がしなくもない。
というか、ここまで敢えて名前を出さないようにしていたんですけど…… まさに﹃ポケモン﹄がそうじゃないですか。 日本発のRPGで、全世界的に大ヒットしている、名実ともに﹁日本代表のRPG﹂と言えば間違いなく﹃ポケモン﹄ですよ。2バージョン合計だからややこしいんですけど、﹃赤・緑﹄は全世界3000万本以上︵海外では緑じゃなくて青︶、3DSの﹃X・Y﹄でも全世界1600万本以上を売り上げています。仮に﹁1人が両バージョン買っているからユーザー数的には半分だ﹂としても、﹃ゼルダ﹄や﹃FF﹄にまったく見劣りしない売上ですよね。
﹃ポケモン﹄は戦闘がコマンド選択方式ですし、ターン制ですし、ランダムエンカウントもありますし、ストーリーに沿うだけなら一本道ですし、キャラクターはアニメ的どころかアニメも放送されているし、そして何より公式に﹁RPG﹂を名乗っているし―――﹁JRPG﹂の定義にピッタリ合っていると思うのですが、﹁どうしてJRPGは時代遅れになってしまったのか﹂﹁今後JRPGはどうなってしまうのか﹂という議論の時に何故か﹃ポケモン﹄は無視されるのです。
10年くらい前、それこそ﹃オブリビオン﹄辺りと比較されて﹁JRPGはダメだ﹂という話題が盛り上がっていた頃に﹁え?でも、﹃ポケモン﹄は全世界的に大ヒットしていますよね﹂と言ったら、﹁﹃ポケモン﹄は﹁RPG﹂ではなくて﹁ポケモン﹂というジャンルなんだ﹂と言われたことがありました。
いやいやいやいやいや! 一番売れている日本発のRPGを﹁アレは売れているから例外だ﹂として、﹁どうしてJRPGは時代遅れになったのか﹂みたいな話をすることに意味あります?
﹃ポケモン﹄と﹃ゼルダ﹄と﹃FF15﹄を除外して﹁最近出た日本のRPGから代表チームを作ろう﹂とか言っても、大谷翔平と田中将大とダルビッシュ有を除外した﹁野球日本代表﹂みたいなもので、それでWBC優勝できなかったからって﹁日本の野球はどうして弱くなったのか﹂なんて語ることに意味ありますか?
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﹁ロールプレイングゲーム﹂のrole-playingは﹁役割を演じること﹂という定義だから、スーファミ時代にはもう﹃FF5﹄﹃FF6﹄辺りに﹁ストーリーを追うだけのゲームはロールプレイングゲームではない﹂という批判がありました。プレイヤーが﹁役者になるのか﹂﹁観客になるのか﹂のちがい。 そこから発展して21世紀初頭あたりには、﹁主人公=自分﹂になって好きなように遊べる﹁洋RPG﹂こそが﹁本来のRPG﹂であって、日本のRPGはムービーを眺めるだけの﹁JRPG﹂だからダメなんだ―――といった今回の話につながっていくという。
しかし、それは単に﹁RPG﹂というジャンルの解釈違いであって。 ﹁主人公=自分﹂になって好きなように遊べるゲームは日本ではRPGと呼ばれていないだけの話じゃないのかと思うんですね。例えば、﹃どうぶつの森﹄とか。例えば、﹃モンスターハンター﹄とか。例えば、﹃ルーンファクトリー﹄とか。
日本では﹁RPG﹂というジャンルは﹃ドラクエ﹄﹃FF﹄的なものという認識が強いので、﹃ドラクエ﹄﹃FF﹄的でないゲームは﹁RPG﹂というジャンルに名乗りを挙げない傾向があります。少なくとも近年は。﹃ゼルダ﹄は﹁アクションアドベンチャー﹂ですし、﹃どうぶつの森﹄は﹁コミュニケーション﹂ですし、﹃モンスターハンター﹄は﹁ハンティングアクション﹂ですし、﹃ルーンファクトリー﹄は﹁ファンタジー生活﹂ですし。
でも、例えば海外の会社が作った﹃ルーンファクトリー﹄っぽいゲームである﹃Stardew Valley﹄は﹁open-ended country-life RPG﹂とRPGを名乗っているんですね。似たようなゲームなのに、こちらは﹁RPG﹂を名乗っているのです。
つまり﹁RPG﹂というジャンルを名乗るものが日本と海外では別だというのが、そもそもの﹁JRPG﹂議論の噛み合わなさの発端にあるんじゃないのかと思うんです。﹁日本のマンションはアメリカではアパートと呼ばれていて、アメリカのマンションは日本で大豪邸と呼ばれるものなので、アメリカ人に﹁マンションを買った﹂と言うと驚かれる﹂みたいな話で―――
海外の人の﹁どうして日本のRPGは﹁主人公=自分﹂になって好きなように遊べないんだ?﹂という疑問は、﹁日本ではそういうゲームはRPGとは呼ばれないんだ﹂と言えば早いんじゃないかと思えてきました。
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