リコリスや曼珠沙華とも呼ばれる、誰でも知ってる赤い花ヒガンバナ。
他にもシビトバナとか地獄花とかオヤシネコシネとか物騒なものを含め、
方言が1000以上もある異常な植物です。
それだけ各地で特異な存在だったのでしょう。
最近は白や黄色も増えてきましたね。
毒成分は複数のアルカロイド。
その主成分はリコリンで、リコリスが語源か?
︵どうでもいいけど、毒舌アイドルとかにピッタリな響きだよね。リコリン。︶
球根1gあたり約0.15mgのリコリンを含み、他にもガランタミン、セキサニン、ホモリコリン等約20種のアルカロイドの複合体だから毒の塊みたいなものですね。
ヒガンバナ科の植物の汁を毒矢に塗って狩りをする光景もTVで見たことがあるが、あれも主成分はリコリンらしい。
獲物の体重さえ軽ければ、その程度で殺傷力があるほどの毒な訳です。
その毒性のせいかモグラやネズミも避けるので、畑や田んぼの畦道や堤防に植えられ全国に広まっていったのだとか。
墓の周りに多いのも、虫や動物が避けるので遺体を荒らされないように植えていた土葬時代の名残だそうです。
毒性ありきで広まっているがゆえに方言にも物騒なものが多いんでしょうね。
毒草だけど救荒植物として江戸時代以前の飢饉の際は毒抜きして食べられていたという話はあまりにも有名。
明治から昭和初期まではこのデンプンを精製する会社まであったという噂。
しかし最近では食べた話はまるで聞きません。
有名どころでは10年前の所さんの番組くらい?
つーか、所さんホントになんでも食ってんなwww
想像するにただのデンプンでしょうから、きっと頑張り甲斐のない結果になるんでしょうね。
でも、同じデンプンでもジャガイモとカタクリとクズとコーンスターチでは価値も違う。
ヒガンバナのデンプンに個性が感じられるのか、やっぱり気になりませんか?
採ってきました。
さてこれを摩り下ろします。
昔から臭いとは聞いていたものの、青臭さは少し特徴的ですが、強さは玉葱ほどではありませんね。
多分、子供に触らせない為の方便みたいな意味合いが強かったのかも。
長時間﹁生ヒガンバナ汁﹂に触れるのでディスポさんの出番です。
根や茎をとってひたすらに球根をすりおろします。
ヌルヌルしすぎでとてもやりにくいです。
おろしニンニクっぽいけど青臭いだけのヌルヌルな何かが山のようにできました。
これをサラシに包み、ボウルに張った水の中で揉み出していきます。
これがまた超ヌルヌルしていてジャガイモのように簡単にいかない。
ぐちゅぐちゅ・・・
ぐっちょぐっちょ・・・
あぁカニ食いてぇ。
たったこれだけを絞るのに1時間経過。
この生臭ドロドロ液からデンプンだけを取り出す訳です。
小学生の授業でジャガイモからデンプンを取り出した経験がこんなところで生きるとは。
しかし液体が粘性高すぎなので沈殿時間をかなり長くとる必要がありそうです。
様子を見ながら2時間経過したあたりでだいぶ沈殿したように見えるので1回目の上澄み廃棄。
その後1時間毎に上澄みを換える。
3回目あたりから粘性が少なくなったのか、沈殿速度が急激に上がりましたね。
ちょいちょい球根の破片が混じってるのが気になるので、ピンセットで取り除きながら7回水変えて終了
・・・としたいところですが、よく文献で見かける﹁流水﹂ではないので、大事をとって一応8回やりました。
で、ここで問題です。
ヒガンバナの毒抜きの方法について調べるといろいろ出てくるのですが、ここから﹁煮込んでから粉にして保存﹂なんてものも出てきます。
んな訳ないでしょーがw
デンプン煮込んだら糊化してαデンプンになっちゃうでしょ。
だいたい、含有率の最も高いリコリンは熱に安定なんだから、この段階にまできて過熱しても糊化して乾燥困難になるだけで意味がない。
百歩譲って、粉を保存できるビニールなどがなかった大昔なら、糊化したものをパリパリに乾燥して大きい塊にして保存するのもアリだったかもしれませんが、一食にすら足りなそうな量なので今回はこのままいきましょう。
こういうのを鵜呑みに何も考えないで実行すると、ここまでの苦労がパーになり食材の命も無駄になるんですよね。
だからやりもしないで語るのって嫌なんですよ。
おそらくヒガンバナは方言の多さが示す通り、伝聞伝聞の繰り返しで情報は相当に交錯しているんじゃないでしょうか。
こうならないよう、昨今の他所から情報集めて垂れ流すだけの情報サイトさん方には真実を流して欲しいと強く願うところです。
そんな訳で、干して粉にしました。
ここまでくると見た目だけはただの片栗粉ですね。
でも紛れも無いヒガンバナ粉です。
簡単に崩して粉末になるのですが、器に付着すると勿体無いのであえて崩していません。
ちなみに、球根910gからすりおろした部位が約800g、
そしてできたヒガンバナ粉は乾燥重量で約17g
ジャガイモなら200gからもっと簡単に作れる分量です。
手作りはまったくもって割りに合いませんね。
本当はデンプン含有率も非常に高いらしく花の咲く前に採集すべきなので、開花した後ではやはりデンプンがかなり消費されているのかもしれません。
しかし先送りにすると来年4月以降になり、また忘れていつになるかわからないので仕方ないですね。
どちらにしても、あの想像以上のヌルヌルをうまく絞りきれる気がしません。
ここで問題がもうひとつ。
高知県土佐山村中切に伝わっていたとされる毒抜きの方法が、なんと先に過熱してしまってから毒を抜ききり、デンプンを取り出すというもので、今回とは全く違う手順となるのですが、どうにも私の頭では理解できないものなのでやってみないとわからない。
詳しい手順を記したサイトもあるけれど、それも報告をまとめたもので第三者の実践はされていない。
イメージ的には茹でた玉葱を裏ごししてそこからデンプンを分離するような流れになるのだが、それってどうなのよ?
デンプンだけ分離とか難しくね???
通常ならばこの方法も平行して行い、味も比べてみたいので迷ったのですが、万が一、毒が抜けておらず中毒した際にどれが原因がわからなくなってしまうのが本意ではないので、今回この方法は先送りにすることにした。
万が一試してみようと思う方はくれぐれも注意してください。
茹でてどうこうして食べての中毒例が多いみたいなので。
さて、こんな少しのヒガンバナ粉をどうしましょうか?
できるだけ風味がわかるようシンプルに、食感も殺さないように試したいものです。
わらび餅みたいなものでもいいけど、飢饉の時にわらび餅が主食になるか?
どうも他の雑穀や屑米などと混ぜて緊急事態の主食とされていたようですので、、ヒガンバナ粉をメインにした﹁もやしチヂミ﹂にしてみることにしました。
比較対象が欲しいので、ジャガイモデンプン版をブランクとして作成。
両者同量に4gの小麦粉を加え攪拌、ダイラタンシー流体になるところまで水を加えていったのですが、ここで異変。
ジャガイモデンプン中心の片栗粉+小麦粉のほうは13mlの水で達したのに、ヒガンバナ粉のほうは全然足りない。
15ml超えたところで同じくらいの状態までいったが、それでも液化する動きが微妙に違って緩やかな感じ。
見た目は同じような粉になったのに性質は違うあたり、やっぱり現実はウソつかない。
デンプンなり混入物なりに何か特性があるんでしょうね。
なんにしても死ぬほどの毒か死ぬほど不味くならなければ問題はないです。
調味は少なすぎて定量が嫌なので、卵黄に塩一つまみと出汁一滴を入れたものを作り、各ティースプーン半分ほど投入、攪拌。
それぞれにチンして水分を切ったもやしを各20本投入。
飾り程度にニラと紅生姜を乗せ、油を引いたフライパンで焼きました。
左が普通の片栗粉、右がヒガンバナ粉です。
どっちがどっちだかわからなくなるのでヒガンバナ粉のほうは判りやすくしてみました。
失敗したら最初からやり直しかと思うと、ここがいちばん緊張したw
さて、では実食です。
失敗していれば30分以内に激しい 下痢や嘔吐がはじまるはずなのでわかりやすいです。
リコリンの中毒症状は、自発的運動の減衰、痙攣、呼吸抑制、重篤な場合は呼吸停止。
でもあれだけ希釈されている訳だから毒抜きに失敗していても軽い呼吸不全程度にもならないんじゃないかな。
こういった際にいつも重要と考えていることがひとつあります。
プラセボで腹痛や嘔吐が起こらないように精神をニュートラルにすること。
無毒なのに当たったり、不味くないのに先入観で不味いと言ってしまうのは非常に愚かなことだし、無毒な食品に失礼です。
長年気になっていたものがようやくひとつ決着します。
はむっ
︵゜~゜︶
・・・もっちもちやな。
かなり味は控えめにしたけど、充分うまいな。
ジャガイモデンプンのほうは使い慣れたデンプンの食味食感そのものだ。
さて、問題のヒガンバナは・・・
︵゜w゜︶んっ!?
美味いけど、ジャガイモデンプンとは違う。
嫌なニオイは全くないけれど、球根のあのニオイ由来と思われる青っぽい香りが極々僅かに残っている気がする。
でもこんな僅かな香りは乾燥した粉状態で保存していたらすぐ飛んでしまうだろうね。
それよりも明確に違うのは、ジャガイモデンプン版よりも小麦粉の割合を少し増やしたような食感になっていること。
片栗粉っぽさが弱いからかモチモチ感も少し抑えられ、どちらかというと微妙~~に普通のお好み焼きの生地寄りになっている。
一言で言えば﹁食える!﹂
いや、それじゃ不味いみたいか。
これだけ普通に食べられるものになるなら、確かに知ってさえいればいくらでも生えてて誰も手を出さないんだから飢饉を乗り切れたかもしれない。
これならコオロギや食える草でも混ぜて焼けば充分主食でイケるわ。
多分、ヒガンバナ粉単体の料理を出されても、普段から片栗粉単体の料理を食べ慣れている人じゃないと普通に片栗粉食感に言及して終わりなんじゃないかな。
それくらい、普通にデンプンでありつつ、微妙に違うものでした。
多分、普通の人が見てもつまらないレポになったとは思うけど、ヒガンバナについては昔の人々の中によほど畏怖の念があったのか、あまりに伝承が多くて、それを読んだだけですぐ納得できるようなものが非常に少なかったのでやってみて満足です。
でも面倒くささ半端ないから
飢饉でもこなけりゃもういいわwww
真似して死んでも責任とれませんので、良い子も悪い子も真似しないように。
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今更ですがつい最近高知が地元の祖母から、子供の時に近くにデンプン工場があったがそこが捨てる廃水で川が真っ白になって問題になり挙句の果てにはその粉を使った饅頭で死傷者が出て会社が潰れたという話を聞きました。私達にとっては歴史の話が実体験として語られるのは何とも言えない面白さがありますね。
ヒガンバナ属はわりと山だと鹿に食われているのを見かける植物ですね
連中はアルカロイドなんて関係ないんだろうか
ヘソビ餅、食べたことあるけど、特に何の感慨も無かった。ヒガンバナの毒は水溶性なので、別に火を通さなくてもちゃんとやれば徹底的に水で流して食えますね。栃餅作るよりは簡単ですから、救荒食として定義されましたが、実用性皆無ですね。
渇水で完全に干上がって溜池しかなくなってしまう状況では現実的でないように思いますが、流れている小川だけでもあるのであればヤシからデンプンをとる国のような感じで可能だろうなぁと思います。
球根以外にも青々とした葉も同様に刻んで水に晒しただけのものを調理して食べたという記述もどこかで読んだことがあります。
デンプン化するよりもリスキーだと思うので少量から試したいけど、少量では安全かどうか断言しにくいし、難しいところですね。
素晴らしいレポート参考になりました。
専用の道具で水車などを利用して、村単位で飢饉時に作るのなら効率が良くなるのかもしれませんね。
ネット小説に参考にさせて頂きます。
ほんとめんどくさいだけなので頑張らず済んでよかったですねw
モグラ防止もよく聞くけど、それも本当なんだかどうだか疑問もあります。
息子が心配しています。
親父の方はガクブルですw
食べる必要皆無だと思いますw
次はソテツ、お前の番だ!
ソテツはアカンw
でも咀嚼して味わって吐くだけならなんとかなるかな?
いつか食っちゃる!と思っとりましたので非常に興味深いレポです
悪い子なんで真似しまっすw
しかし、ニラ、紅生姜で彼岸花を表現するあたり、流石というかスンバラスイ!
旧ざざむし全般で見た美的センスはリニューアルでも健在っすね