明かりの本
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山羊の歌
中原中也
春の日の夕暮
トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです
吁(ああ)! 案(か)山(か)子(し)はないか――あるまい
馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするまゝに
従順なのは 春の日の夕暮か
ポトホトと野の中に伽(がら)藍(ん)は紅く
荷馬車の車輪 油を失ひ
私が歴史的現在に物を云へば
嘲る嘲る 空と山とが
瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言ながら 前進します
自(みづか)らの 静脈管の中へです
底本‥﹁中原中也詩集﹂岩波文庫、岩波書店
1981︵昭和56︶年6月16日第1刷発行
1997︵平成9︶年12月5日第37刷発行
底本の親本‥﹁中原中也全集 第1巻 詩 ﹂角川書店
1967︵昭和42︶年10月20日印刷発行
初出‥﹁山羊の歌﹂文圃堂
1934︵昭和9︶年12月10日
入力‥浜野安紀子
1998年11月29日公開
2010年11月2日修正
青空文庫作成ファイル‥
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