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燈台もと暗し
いわゆる根(ね)ッ木(き)の問題には限らず、我々がお互いに話し合ってみないために、覚るべきことを覚らずにいる場合ははなはだ多い。私がこんな小さなことに力を入れるのも、目的はもっと自分の中にある﹁日本﹂を見つけ出してもらおうがためである。各地から寄り集まっている人々の話題を、できるだけ朗(ほがら)かな楽しいものにしたいからである。
まちがっていたら正してもらうようになるべく多くの地名を掲げる。尖(とが)った木の棒を土の上に突き立てて相手の立てたのを倒し合う競技を、関東とその周囲の県ではネッキという者が多く、またネンボウという名も伊(い)豆(ず)あたりまで行なわれている。それよりももっとひろいのは、北陸では能(の)登(と)の七(しつ)浦(ら)村などでいうネンガラウチで、ここでは村の鎮(ちん)守(じゅ)の御(おま)祭(つり)の日の遊びだが、西の方に行くとそれが子どものただの遊びとなっている。たとえば鳥取市の附近の村でもネンガラ、ここでも稲(いね)刈(かり)後(ご)の田へ出て遊ぶ。次には山口県の豊(とよ)浦(ら)郡でもネンガラ、海を渡って筑(ちく)前(ぜん)の大島でネンガラ、これも遊びかたは同じだが、注意すべきことには御(おさ)産(ん)のあった家の前で、子どもがこの木を組んで産(うぶ)屋(や)というものを立てるという。しかしもう一度尋ねてみなければ詳しいことは言えない。
それから西へ廻って長崎県の下(しも)五(ごと)島(う)にもネンガラ打ちの遊びがあり、さらに熊本県の天(あま)草(くさ)下(しも)島(じま)でも旧十一月丑(うし)の日の山の神祭の前に子どもが、手(てご)頃(ろ)の木を伐(き)って来て、このネンガラを作っておいて祭の日に遊ぶというのは、いよいよ信仰上の儀式であったことを思わしめる。同じ遊びはまた阿(あ)蘇(そ)郡の山村にもあるが、ここでは少しかわってネンゴロといっている。鹿児島県の甑(こし)島(きじま)へ行くと上(かみ)甑(こしき)の方ではネンガラまたはネンガネ、このカネはベロベロの神をカネジョというのと同じで鉤(かぎ)のことらしい。下(しも)甑(こしき)の手(てう)打(ちこ)港(う)などはこの遊びをネンウチ、それで遊び道具の方をただネンと呼んでいるが、起りの一つであったことは疑いがない。昔は九月九日の節(せっ)供(く)の日の子ども遊びであったというが、今ではもう常の日にもすることがあるらしい。奄(あま)美(みお)大(おし)島(ま)のような遠い島にも、やはり古くからそのネンウチの遊びはあり、その木をネンと呼び遊びかたもよく似ていた。人のネンを打(うち)倒(たお)して手の幅一つだけ離すことができれば、それを取って自分のものとしたという。ただこれらのネンを絵にかいたのを見ると、関西各地のものには私たちの重要視している鉤の枝のないものが多い。いつからないのか考えてみたいと思っている。
︹つづく︺
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