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おきゃく遊び
上州の桐(きり)生(ゅう)附近ではオキャクサンヤッコ、信州諏(す)訪(わ)地方でオキャクボッコ、またはオキャナンコというのが東京などの御客遊びに該当する。九州でも熊本県の球(く)磨(ま)郡をはじめ、ままごとをキャクナンドというところは多いようである。遊戯中心の移るにつれて、新しい名も次々に生まれている。大(おお)垣(がき)の附近にはゴチソウサンゴト、信州でも上(うえ)田(だ)地方にはヨバレッコもしくはオンバレコ、これは新旧二つの方言のたがいに接近して紛(まぎ)れやすくなった例である。一(いっ)茶(さ)の﹃方言雑集﹄にオバチコとあるのが、多分北信の例であろう。子ども遊びに柿(かき)など切り刻みて、呼んだり呼ばれたりすること也(なり)とあるが、これは呼ばれごとでなく、姥(うば)ごとの方から出ているかと思う。
御客遊びをオクサンゴッケンと呼んでいる例が、大(おお)分(いた)市にはあるというが、越(えち)後(ご)のどこかにもオカサマゴッチョという名ができていて、この方はかなり起りが古い。たとえば﹃甲(か)斐(い)の落(おち)葉(ば)﹄にはオカダッコ、食物調理の真似をして遊ぶこと、すなわちままごととあるが、南(みな)大(みや)和(まと)の方言集にも、雛(ひな)遊(あそ)びをここではオカタサンゴトというとある。宮城県はほとんと全国を通じて、オカカブツ・オカカボチといった記録がある。主婦をオカタというのは中世以後の標準語であって、それを小児があどけなく発音したのが、今日のカアサマ・カカサン・カカ・オッカーなどの語を作っている。彼らの功労は国語の先生よりも大きいかと思う。
ままごとの主役はおかっぱの主婦だったのである。だから主婦の名が変ればそれについてままごとの名も変って行くのである。母をオウカチャマという越後の新(し)発(ば)田(た)辺ではオガチャマゴト、主婦がジャジャと呼ばれる秋田県の北部ではジャジャボッコというのがままごとのことである。ジャジャは中世の茶々の局(つぼね)などのチャチャと同じく、もとは緑(みど)児(りご)が母を呼ぶ声から出たものらしい。今では父をチャンと呼ぶ方が多くなっているが、越前の福井附近でままごとをジャジャンコ、紀州の熊野でチャチャボコというのも、かつては母をそう呼んでいた名(な)残(ご)りかと思う。そういう例ならば外にも求められる。山形県のオバコは今日は未婚の女のことだが、米(よね)沢(ざわ)地方ではままごとをオバコダチ、中国地方のオバサンは他家の婦人のことなのに、但(たじ)馬(ま)ではこの遊びをオバサンゴトと呼んでる。それはみな家々の主婦をウバといったころの遺物なのである。
︹つづく︺
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