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ネンガラの鉤
念木・念棒の問題についても、二十何通の通信を私は受取っている。遊びの方式はどこの土地もほぼ一様で、ただ細かな規則に少しずつの差異がある。名称は隣どうしの村々でもちがっていて、しかも不思議に遠い地方との一致が認められる。あまり数が多いので私も全部は列記しなかったが、やはり一ばん多いのはネンで、その中でもネンガラ・ネンガリなどがひろく行なわれている。木とか棒とかクイとかいうものの、今一つ古い言葉がカラではなかったかと私は思う。
ネンガラには元(もと)はみな鉤(かぎ)枝(えだ)がついていたろうというのが、私の新しい意見であって、これにはまだ同意の人が少ないように思われた。しかし自分が鉤のある念棒を用いていたというためでなく、本来は二(ふた)叉(また)に岐(わか)れた木の枝というものが、特別に霊の力があるもののように、我々の祖先には考えられていた。その心(ここ)持(ろもち)が今も子どもの中に伝わっているごとく感じたからである。二(ふた)また大(だい)根(こん)などは近頃の話だが、もとは﹁またぶり﹂という股(また)になった杖(つえ)を、旅の聖(ひじり)などは皆ついていた。西洋で占(うらな)いの杖というのも皆これで、金鉱・地下水の発見の技術も、また北アジア名物の宝(たか)捜(らさが)しも、もとはすべてこの枝によったのであった。ネンガラの童戯が果して私の想像のように、最初子どもらしい大(おと)人(な)の占いの方法に出たものならば、必ず鉤があるわけだと私は思っているのである。
ところが関西のネンガラにはもう一般に鉤がない。ないのが当り前のようにいう人が多いので、少しばかり弱っていると、これも幸いに実例が出てきたのである。九州でも中央の山地にはまだ鉤のあるネンがあるらしい。豊(ぶん)後(ご)の玖(く)珠(す)地方のものは久(くる)留(しま)島(たけ)武(ひ)彦(こ)氏が図示してくれられた。ただしここのは関東とちがって、小枝の方を長くして把(とっ)手(て)にしている。それでは力の入れかたが我々とは異なっていたろうと思うが、とにかく呼吸だから、覚え込んだものが伝わっているのである。或いは鉄で打たせたものもあって、これも棒ではなく、よほど曲っているのが面白いと思った。山口県の一部では、キリコまたはネコというのが、鉤のある念木の特別品であった。佐賀県および豊(ぶぜ)前(ん)の一つの報告では、ネン木は通例は直(す)ぐな棒だが、時には枝附きのものを大事にして持っておる子がある。この方が勝負に強く、相手に打たれてもくるっとまわって容易に倒れぬからということであった。
︹つづく︺
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