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ゆあみする泉の底の小(さゆ)百(り)合(ば)花(な)二(はた)十(ち)の夏をうつくしと見ぬ
みだれごこちまどひごこちぞ頻なる百合ふむ神に乳(ちゝ)おほひあへず
涼(りや)夜(うや)
星が四(しは)方(う)の桟敷に
きらきらする。
今夜の月は支(し)那(な)の役者、
やさしい西(せい)施(し)に扮(ふん)して、
白い絹団(うち)扇(は)で顔を隠し、
ほがらかに秋を歌ふ。
卑怯
その路(みち)をずつと行(ゆ)くと
死の海に落ち込むと教へられ、
中途で引返した私、
卑(ひけ)怯(ふ)な利(りこ)口(うも)者(の)であつた私、
それ以来、私の前には
岐(えだ)路(みち)と
迂(まは)路(りみち)とばかりが続いてゐる。