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誰ぞ夕(ゆふべ)ひがし生(いこ)駒(ま)の山の上のまよひの雲にこの子うらなへ
悔いますなおさへし袖に折れし剣(つるぎ)つひの理(おも)想(ひ)の花に刺(とげ)あらじ
額(ぬか)ごしに暁(あけ)の月みる加茂川の浅(あさ)水(みづ)色(いろ)のみだれ藻(もぞ)染(め)よ
御(みそ)袖(で)くくりかへりますかの薄(うす)闇(やみ)の欄(おば)干(しま)夏の加茂川の神
或人の扇に
扇を取れば舞をこそ、
筆をにぎれば歌をこそ、
胸ときめきて思ふなれ。
若き心はとこしへに
春を留(とゞ)むるすべを知る。
桃の花
花屋の温(む)室(ろ)に、すくすくと
きさくな枝の桃が咲く。
覗(のぞ)くことをば怠るな、
人の心も温(む)室(ろ)なれば。
杯(さかづき)
なみなみ注(つ)げる杯(さかづき)を
眺めて眸(まみ)の湿(うる)むとは、
如(い)何(か)に嬉(うれ)しき心ぞや。
いざ干したまへ、猶(なほ)注(つ)がん、
後(のち)なる酒は淡(うす)くとも、
君の知りたる酒なれば、
我の追ひ注(つ)ぐ酒なれば。
日(ひよ)和(りや)山(ま)
鳥羽の山より海見れば、
清き涙が頬(ほ)を伝ふ。
人この故を問はであれ、
口に云(い)ふとも尽きじかし。
知らんとならば共に見よ、
臥(ふ)せる美(ヴェ)神(ニユス)の肌のごと
すべて微(ほゝ)笑(ゑ)む入江をば。
志摩の国こそ希(ギリ)臘(シヤ)なれ。