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うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜(よか)風(ぜ)の青き
恋ならぬねざめたたずむ野のひろさ名なし小川のうつくしき夏
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己(おの)が痛さを知らぬ虫、
折れた脚(あし)をも食(は)むであろ。
人の言葉を持たぬ牛、
云(い)はずに死ぬることであろ。
ああ虫で無し、牛でなし。
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夢にをりをり蛇を斬(き)る、
蛇に巻かれて我が力
為(し)ようこと無しに蛇を斬(き)る。
それも苦しい夢か知ら、
人が心で人を斬(き)る。
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身を云(い)ふに過ぐ、外(ほか)を見よ、
黙(もく)黙(もく)として我等あり、
我が痛さより痛きなり。
他(た)を見るに過ぐ、目を閉ぢよ、
乏しきものは己(おの)れなり。
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論ずるをんな糸採(と)らず、
みちびく男たがやさず、
大学を出ていと賢(さか)し、
言葉は多し、手は白し、
之(こ)れを耻(は)ぢずば何(なに)を耻(は)づ。