あひるさんは鳥は鳥でも羽が短いのでとぶことが出来ません。あひるさんの近所に、鶴つるさんがゐました。二人はお友達でした。 あひるさんは鶴さんの羽を見る度に一度貸してもらひたくて仕方がありません。でも、貸して下さいなどといふことは、あひるさんは恥しくて言へません。﹁鶴さん、君の羽は飛べるからいゝねえ。僕ぼく、君に、僕の持つてゐる万年筆をあげようか﹂とあひるさんが言ひました。鶴さんは大喜びで、﹁うれしいなあ、ほんとに呉くれるのかい。﹂と言ひました。﹁うん、今あげる。﹂と言つて、あひるさんは鶴さんに万年筆をあげてしまひました。そして鶴さんは毎日、それを胸にはさんでゐます。でも﹁ぢやあ、君に、僕の羽を貸してあげよう。﹂とは言ひません。 あひるさんは、又ある日、鶴さんに、時計をあげました。それから靴くつ、それから、鉛筆、色紙、お菓子、本、おもちや、あひるさんは持つてゐるものをみんな鶴さんにあげました。 鶴さんはお家うちにそれを持つて帰つて、机の中に誰だれにも言はないでしまつてをきました。鶴さんはどういふわけで、こんなに色々なものをあひるさんがくれるのだか、分らなかつたので、心配だつたからです。でも子供でしたから、矢やつ張ぱりくれるものはもらはずには居られなかつたからです。 すると鶴さんのお母さんが、その引出しを開けて、中にこんな物が一杯はいつてゐるので驚いて鶴さんに聞きました。鶴さんはほんとのことを話しました。鶴さんのお母さんは、早速あひるさんのお家へ行つて、あひるさんのお母さんに、そのことを話しました。 あひるさんのお母さんは、あひるさんを呼んで、どうして、こんなに沢山鶴さんへお母さんにはだまつて、ものを上げたのかと聞きましたが、あひるさんは顔を真まつ赤かにしてどうしても言ひません。おしまひに、たうたう小さな声で言ひました。﹁私は、鶴さんの長くて強い羽を貸してもらつて飛んで見たかつたからです。鶴さんに、好きなものをあげたら、鶴さんが、僕に、その羽を貸すだらうと思つたからです。﹂あひるさんのお母さんは鶴さんのお母さんに、そのことを申しました。 鶴さんのお母さんはあひるさんが可哀相でなりませんでした。それで鶴さんのお父さんは航空飛行会社の社長さんですから、近いうちに、あひるさんをその飛行機にたゞでのせて、高い所を見せてあげようと思ひました。 何な故ぜといつて、どうしても、生へてゐる羽を借すなんてことは出来ないからです。あひるさんは子供ですから、そんなことが分らなかつたのです。