円分体 (えんぶんたい、英: cyclotomic field) は、有理数体に、1の
乗根
を添加した代数体である。円分体およびその部分体のことを円体ともいう。
以下において、特に断らない限り、
とする。
●3以上の整数 mに対して、円分体
の拡大次数
は、
である。但し、
はオイラー関数である。
●任意の円分体は、ガロア拡大体であり、ガロア群は、アーベル群である。
●3以上の整数 mに対して、
(
は、相異なる素数、
と素因数分解すると、
は、
の合成体であり、
が成立する。また、円分体
で分岐する有理素数[注釈1]は、
に限る。
●
である。この
を、最大実部分体または実円分体という。
●一意分解整域となる円分体
)[注釈2]は、m が 3, 4, 5, 7, 8, 9, 11, 12, 13, 15, 16, 17, 19, 20, 21, 24, 25, 27, 28, 32, 33, 35, 36, 40, 44, 45, 48, 60, 84 の場合だけである。
●特に、23以上の素数 pに対しては、円分体
は一意分解整域でない。
●類数が2である円分体
) は、m = 39, 56 だけである。
●円分体
に含まれる代数的整数の集合は、
である。
m を3以上の整数として、円分体を
とする。
(1) mが素数のとき
K の判別式は、
である。
(2)
(p は素数、h は2以上の整数)のとき
K の判別式は、
である。但し、
(3)
(
は相異なる素数、
であるときには
円分体
の判別式を
とすると、
K の判別式は、
である。
クロネッカー=ウェーバーの定理 (Kronecker-Weber's theorem)
K が有理数体上のアーベル拡大体のとき、ある整数
が存在して、
となる。
例えば、二次体はアーベル拡大体であるので、クロネッカー=ウェーバーの定理より、ある円分体の部分体になる。
クロネッカー=ウェーバーの定理は、基礎体が有理数体であるときを考えているが、基礎体を虚二次体にしたときも、同様なことが成立するかを問うたのが、クロネッカーの青春の夢である。
素数 pに対して、
の左辺を、
上で分解すると、
となる。
ラメ (G. Lamé)、コーシー (A. Cauchy)らは、上記左辺を考察し、フェルマーの最終定理が成立することを証明したと発表した。しかし、クンマー (E. E. Kummer)は、彼らの証明は、左辺の分解が一意的であることが前提になっており、
のとき、それが成立しないことを示した。
そのため、
(円分体の性質にある様に、23以上の全ての素数) の場合、別の方法をとる必要がある。
クンマーは、素元の分解が一意でなくとも、ある性質をもつ素数である場合、彼らの証明のアイデアを生かしながら、フェルマーの最終定理が成立することを証明した。
クンマーにより考察された素数は、以下の性質を持ち、正則素数と呼ばれる。
●素数 pは、円分体
の類数を割り切らない。
正則素数に対しては、以下の補題が成立し、クンマーは、この補題を用いて、ベキが正則素数の場合のフェルマーの最終定理を証明した。
クンマーの補題
素数 pが正則素数であれば、円分体
の単数 ε を、
となる有理整数 aが存在するようにとると、
の単数
が存在して、
と表される。
正則素数についての詳細は、正則素数 を、フェルマーの最終定理については、フェルマーの最終定理を参照のこと。
ガウス (C. F. Gauss)は、今日、ガウス和と呼ばれる1のベキ根の指数和を考察することにより、平方剰余の相互法則、第1補充法則、第2補充法則を示した[注釈3]。さらに、
上のガウス和を考察することで、3次、4次剰余の相互法則を得ることができる。クンマーは、円分体に対する深い考察により、高次のベキの剰余に関する相互法則を与えた。
高次ベキの剰余の相互法則は、その後、フルトヴェングラー (P. Furtwängler)により全ての素数に対して与えられ、さらに、類体論の結果を用いて、高木、アルティン (E. Artin)、ハッセ (H. Hasse)らにより、より一般の形での相互法則が得られた。
以下において、p を奇素数とする。
円分体
の類数を
、最大実部分体
の類数を
とすると、
(
は有理整数)と表すことができる。
このとき、
を第1因子または相対類数、
を第2因子または実類数という。
第1因子については、以下の様な性質がある。
●素数 pに対して、p が
を割り切る必要十分条件は、p が第1因子を割り切ることである。
つまり、第1因子が pで割り切れないならば、p は正則素数である。
この性質により、第1因子はフェルマーの最終定理との関連で多くの研究がなされている。
●素数 pに対して、p が第1因子を割り切る必要十分条件は、
が、
を割り切る様な整数 k
が存在することである。
●
が奇数であるならば、
は奇数である。
クンマーは、第1因子の増大度に対して、
と予想した。
但し、
。[注釈4]
この予想が成立するかは不明であるが、例えば、以下のことが知られている。
。
第2因子に対しては、以下の様な性質がある。第1因子よりも取り扱いが難しいため、第2因子の性質はあまり分かっていない。
●q を素数とし、
とする。
が素数であるならば、
である。
ヴァンディヴァー (H. S. Vandiver)は、p は
を割り切らないと予想した(ヴァンディヴァー予想)。現在でも、この予想が正しいかは不明である。
円分体の類数を求めるには、
より、第1因子と第2因子を求めればよい。[注釈5]
●第1因子
●
。
ここで、
S は、
を満たす、法 mに関する指標の集合とする。
特に、m が素数 pの場合、以下の形で表される。
●
。
m が素数のとき、以下の様な式がある。
●
ここで、η は、1の原始
乗根とし、
。
但し、g を、法 pに対する原始根としたとき、
に対して、
は、
を満たす正整数とする。
●p の倍数ではない整数 rに対して、
を、
を満たすようにとる。
また、
を、
を満たすようにとる。
[注釈6]とおくと、
である。
●第2因子
●
。
ここで、R は、
の単数基準、T は、
を満たす、法 mに関する指標のうち、単位指標ではない指標の集合とする。
特に、m が素数 pの場合、以下の形で表される。
●
。
ここで、η は、1の原始
乗根、g は、法 pに対する原始根とする。
m が素数のとき、以下の様な式がある。
●
に対して、
[注釈7] とおく。
g を法 pに関する原始根とし、
とおく。
また、σ を、
を満たす、
の生成元とする。
とおくと、
。
但し、R は、
の単数基準とする。
(一)^ 有理整数である素数のこと。
(二)^
としたとき、
であるので、
としてよい。
(三)^ この証明は、ガウスによる4番目の証明である。(1805年8月30日に証明)
(四)^
が成立するので、ディリクレのL関数の積が1に収束することと同値である。
(五)^ 実際は、円分体に対して、直接類数公式で求めるのが普通である。
(六)^ マイレ(Maillet)の行列という。
(七)^ 各 δk は、
の正の実数である単数であり、クンマー単数または円単数と呼ばれる。
●足立恒雄﹃フェルマーの大定理 整数論の源流﹄筑摩書房︿ちくま学芸文庫 ア24‐1 Math & Science﹀、2006年9月。ISBN 978-4-480-09012-6。
●ガウス, J. C. F. 著、高瀬正仁 訳﹃ガウス数論論文集﹄筑摩書房︿ちくま学芸文庫 カ33-1 Math & Science﹀、2012年7月。ISBN 978-4-480-09474-2。
●ガウス, J. C. F. 著、高瀬正仁 訳﹃ガウスの︽数学日記︾﹄日本評論社、2013年8月。ISBN 978-4-535-78584-7。
●河田敬義﹃数論 古典数論から類体論へ﹄岩波書店、東京、1992年4月。ISBN 978-4-00-005516-1。
●倉田令二朗﹃平方剰余の相互法則 ガウスの全証明﹄日本評論社、東京、1992年10月。ISBN 978-4-535-78192-4。
●高木貞治﹃代数的整数論﹄︵第2版︶岩波書店、東京、1971年4月。ISBN 978-4-00-005630-4。
●高瀬正仁﹃ガウスの数論 わたしのガウス﹄筑摩書房︿ちくま学芸文庫 タ31-2﹀、2011年3月。ISBN 978-4-480-09366-0。
●ノイキルヒ, J. 著、梅垣敦紀 訳﹃代数的整数論﹄足立恒雄(監修)、シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2003年12月。ISBN 978-4-431-70901-5。
●ノイキルヒ, J. 著、梅垣敦紀 訳﹃代数的整数論﹄足立恒雄(監修)、丸善出版、東京、2012年9月。ISBN 978-4-621-06287-6。
●ボレビッチ, Z. I.、シャハレビッチ, I. R. 著、佐々木義雄 訳﹃整数論﹄ (下)、吉岡書店、京都︿数学叢書﹀、1972年。
●ボレビッチ, Z. I.、シャハレビッチ, I. R. 著、佐々木義雄 訳﹃整数論﹄ (下)︵POD版︶、吉岡書店、京都︿数学叢書19﹀、2000年8月。ISBN 978-4-8427-0287-2。
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