麹町中学校内申書事件
日本で高校受験の際に「内申書」に自己の思想に密接に関連する外部的行動が否定的に評価・記載されたことで学習権が侵害されたとする原告が損害賠償を求めた行政訴訟
麹町中学校内申書事件︵こうじまちちゅうがっこうないしんしょじけん︶は、日本における高校受験の際にいわゆる﹁内申書﹂に自己の思想に密接に関連する外部的行動が否定的に評価・記載されたことで学習権が侵害されたとする原告︵保坂展人︶が損害賠償を求めて起こした行政訴訟である。原告は思想・良心を教育の評価対象とすることが、日本国憲法における思想・良心の自由に反しないかと主張したが、最高裁は﹁思想、信条そのものを記載したものではないことは明らか﹂とし、上告を棄却した。
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 損害賠償請求事件 |
事件番号 | 昭和57年(オ)第915号 |
1988年(昭和63年)7月15日 | |
判例集 | 判例時報1287号65頁 |
裁判要旨 | |
高等学校受験の際に提出する調査書に、「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関紙『砦』を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行った。大学生ML派の集会に参加している。学校側の指導説得をきかないで、ビラを配ったり、落書をした。」などと記載しても、その記載は原告の思想、信条そのものの記載でもなく、外部的行為の記載も原告の思想、信条を了知させ、また、それを評価の対象とするものとはみられないのみならず、その記載に係る行為は、憲法13条違反の違憲の主張は、その前提を欠く | |
第二小法廷 | |
裁判長 | 香川保一 |
陪席裁判官 | 牧圭次、島谷六郎、藤島昭、奧野久之 |
意見 | |
多数意見 | 全員一致 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
憲法19条、21条、26条 |
概要
編集
原告は、千代田区立麹町中学校在学中に学生運動に傾倒し、﹁麹町中全共闘﹂を名乗り、機関紙﹁砦﹂を発行するなどの活動を行っていた。担任教諭は内申書の﹁基本的な生活習慣﹂﹁公共心﹂﹁自省心﹂の欄にC評価︵三段階の最下位︶を付けるとともに、備考欄に﹁文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行った。大学生ML派の集会に参加している﹂等の原告の学生運動に関する経歴を記述した。
高校受験に際し、原告は受験した全ての高等学校が不合格になったが、それは内申書に不適切な記述をされたからだとして、国家賠償法に基づき、東京都および千代田区に損害賠償を求めた。一審は慰謝料の支払いを認めたが、二審で原告が敗訴したため、原告が上告。最高裁判所は、内申書は﹁思想、信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、また右の記載に関わる外部的行動によっては上告人の思想、信条を了知しうるものではない﹂として、上告を棄却した。
学説の中には、﹁中学の全共闘を名乗って機関紙を発行し、大学生の集会にも参加した﹂との具体的な記載があることから、﹁思想の推知﹂が可能であるとして、当該判例を批判するものがある[1]。
原告の保坂展人はその後、教育ジャーナリストから政界に転じ、衆議院議員、世田谷区長となる[2]。また、この訴訟の原告側代理人の一人は、民主党所属の元衆議院議員である仙谷由人である[3]。