「甕」の版間の差分
Category |
重複した引数を整理 |
||
(21人の利用者による、間の24版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
[[画像:瓶を縄張りにしたトノサマガエル①7054572.jpg |
[[画像:瓶を縄張りにしたトノサマガエル①7054572.jpg|thumbnail|300px|[[民家]]の[[庭]]に置かれた甕]] |
||
'''甕'''︵かめ、[[瓶]]とも書く︶は、胴がふくれ口が広く深めの陶製あるいは金属製の容器<ref name="kamino">{{Cite journal|和書|author=神野善治 |date=2014-03 |title=03 民具の名称について -共通名と基本形態- |url=https://kanagawa-u.repo.nii.ac.jp/records/9660 |journal=国際常民文化研究叢書6 -民具の名称に関する基礎的研究-﹇民具名一覧編﹈ |publisher=神奈川大学 国際常民文化研究機構 |volume=6 |pages=19-33 |hdl=10487/12812 |CRID=1570572702719709568}}</ref>。飲料水などの貯蔵や煮炊きなどに使用される<ref name="kamino" />。また[[発酵]]や[[化学反応]]にも用いられる。
|
|||
== 器種 == |
|||
'''甕'''︵かめ‥英jar,西cantaro︵英、西とも壺、甕の区別なし︶、英urn,cooking-pot、希pithos︶は貯蔵や運搬に用いられる容器。[[東京大学|東大]][[理学部]]人類学教室の[[長谷部言人]]︵はせべことんど︶による﹁頸部の径が[[口径]]あるいは腹径の2/3以上のものを甕︵かめ︶と呼び、2/3未満のものを[[壺]]とする﹂という定義がよく知られている。日本考古学では[[弥生時代]]以降に用いられることが多く、[[縄文土器]]の場合は﹁甕﹂の名称を用いず深鉢︵ふかばち︶を用いる。
|
|||
日本語には﹁[[壺]]﹂と﹁甕︵瓶、かめ︶﹂があり区別が困難な場合がある<ref name="kamino" /><ref name="takano">{{Cite web|和書|author=鷹野 光行|url=https://www.thm.pref.miyagi.jp/wp-content/uploads/2019/10/ecb7dfa45e0185c0ccb766a5c84e1602.pdf|title=第12回館長講座 ﹃縄紋土器 器形と用途﹄|publisher=東北歴史博物館 |date= |accessdate=2023-09-04}}</ref>。その例として﹁骨壺﹂と﹁骨甕﹂がある<ref name="kamino" />。
|
|||
考古学上は便宜的に、人類学者の[[長谷部言人]]が考案した正方形を九等分して土器の立面図とし、胴部と頸部の接する部分の幅が全体の3分の2以上のものを﹁甕﹂、3分の2に満たないものを﹁壺﹂とする目安が示されている<ref name="takano" />。長谷部の分類は甕、壺、深鉢、浅鉢、皿、高坏に分けるが、あくまでも目安であり、実際の現場や報告書ではこれとは異なる呼称を用いているものもある<ref name="takano" />。
|
|||
底部からゆるやかに湾曲もしくは屈曲して立ち上がり、わずかに肩部を有するか、そのまま開いた状態で[[口縁部]]に至る器形で、一般的に貯蔵などに使用されるため、必ずしも人間が一人で運搬できるとは限らないような、また運搬することを目的としない大形の器を含めて呼称する。[[須恵器]]の甕には、口径あるいは腹径の2/3未満のものが含まれているなど、肩部から頸部への湾曲状態によっては壺と区別の困難な製品もある。しかし、概ね長谷部の定義どおり、甕は、大量の液体などを保管、貯蔵したり、[[アイ (植物)|藍]]甕にみられるように多量の液体を必要とする作業に用いられる腹部に対する口径の比が大きい容器で[[土器]]・[[陶磁器]]であるもののことをいう。
|
|||
[[縄文土器]]の場合、くびれがあるものは深鉢(ふかばち)を用いることが多い<ref name="takano" />。一方で「埋め甕」や「[[甕棺]]」などの呼称も慣用化されている<ref name="takano" />。 |
|||
日本では、弥生時代中期に[[北部九州|北九州]]、[[山口県]]地方を中心に[[埋葬]]のために[[遺体]]を納める容器として甕が使用され、[[甕棺墓|甕棺]]として知られる。[[中世]]になると、[[常滑焼]]の甕が[[蔵骨器]]や埋蔵銭、水甕など多量の液体などを貯蔵、保管する容器として使われたが、[[近世]]になると[[桶]]にとって代わられた。近世には、[[瀬戸焼|瀬戸]]・[[美濃焼|美濃]]産の小形の甕が銭甕として使用された。また半胴甕という高台脇から屈曲して立ち上がる筒型の甕が18世紀後半以降[[植木鉢]]などに用いられた。また[[沖縄]]の陶器で﹁壺﹂を﹁甕︵カーミ︶﹂とよぶこともある。
|
|||
== 西洋 == |
|||
中型の甕には、瀬戸・美濃産の水甕、体部上半に断面鋸歯状の強い[[轆轤|ロクロ]]目がめぐり、肩部に環状の隆帯がつけられる[[備前焼|備前]]の甕が知られる。常滑焼の甕は、水甕としても用いられることもあったが、[[近世]]ではどちらかというと、甕棺、藍甕などのほかに便槽として用いられることが多かった。 |
|||
=== ギリシャ === |
|||
中国考古学では、日本でいう普通の甕のほかに短頸壺に相当するものも甕と呼んでいる。[[ギリシャ語]]のピトス(pithos)は、大甕に相当する。urnと呼ばれるものは、特に[[火葬]]骨収納用の甕のことをいう。 |
|||
ギリシャの壺や鉢、甕には[[ラスター彩|ラスター]]と呼ばれる僅かに光沢のある釉薬が施されている<ref name="shiraki">{{Cite journal|和書|author=素木洋一 |date=1962-02-01 |url=https://doi.org/10.2109/jcersj1950.70.794_c71 |title=古い陶磁器, 新しい陶磁器 : 歴史的問題 |journal=窯業協會誌 |ISSN=00090255 |publisher=日本セラミックス協会 |volume=70 |issue=794 |pages=C71-C81 |doi=10.2109/jcersj1950.70.794_c71 |CRID=1390282680225266816}}</ref>。 |
|||
=== フランス === |
|||
一方、[[弥生土器]]や[[土師器]]で煮炊き用、炊飯用に使用される土器を甕と呼ぶことがある。これは、cooking-potに相当する。[[欧米]]では、これらの甕よりは深くはなく、[[鉢]]に近いものも見られる。なお、弥生時代の甕棺は、成人埋葬用に作った大甕であり、日用土器を棺として転用した壺棺とは、性格を異にしている。
|
|||
フランスで陶器が作られたのは12世紀とされ、壺や甕、施釉煉瓦や[[タイル]]などが製造された<ref name="shiraki" />。 |
|||
== 中国 == |
|||
中国では比較的口の大きいものを「罐」と総称しており、日本でいう甕類や一部の壺類もこれに含まれる<ref name="nabunken">{{Cite journal|和書|author=毛利光俊彦 |date=2004-03 |url=https://hdl.handle.net/11177/1858 |title=009 II 古代中国の金属製容器 1 器種名について |journal=奈良文化財研究所史料 |publisher=独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所 |volume=第68冊 |pages=2-25 |hdl=11177/1858 |CRID=1050282812390555264 |accessdate=2023-12-06}}</ref>。 |
|||
「瓮」は「甕」の簡略字である<ref name="nabunken" />。また、「甖」は甕類の総称とされるが、一部は[[御櫃]]として使用されていたという<ref name="nabunken" />。 |
|||
== 日本 == |
|||
甕類の種類については、大型の道明寺瓶(どうみょうじがめ)や、それより小型の酢瓶(すがめ)などがある<ref name="oguri" />。また寸胴型に近い半胴瓶(はんどうがめ)があり、常滑焼では「半胴」「半銅」「半戸」「半ト」などの名称が用いられ、瀬戸焼([[赤津焼]])などでは「飯胴」などの名称が用いられた<ref name="oguri">{{Cite journal|和書|author=小栗康寛 |date=2014-10 |url=https://nfu.repo.nii.ac.jp/records/2555 |title=近世常滑窯の真焼甕類について |journal=知多半島の歴史と現在 |ISSN=09154833 |publisher=日本福祉大学知多半島総合研究所 |issue=18 |pages=1-13 |CRID=1520009409098491136 |accessdate=2023-12-06}}</ref>。 |
|||
[[沖縄県]]の泡盛や[[九州地方]]の焼酎のもろみ作りには現在も甕仕込みと称して使用されている例が多い。[[19世紀]]になると、[[薩摩国|薩摩]]の[[福山町|福山]]では[[薩摩焼]]の甕が[[黒酢]]のもろみを発酵させるのにも用いられた<ref>蟹江松雄、藤本滋生、水元弘二、﹃鹿児島の伝統製法食品﹄、pp74-85、2001年、鹿児島、春苑堂出版、ISBN 4-915093-74-3。[[アルコール]]を[[酢]]にする工程ではあまんつぼと呼ばれる蓋付きの壷が用いられる。</ref>。
|
|||
; [[笠間焼]] |
|||
: 甕や[[摺り鉢]]などの日用雑器が作られ、幕末から明治時代には江戸に近い利点を活かして大量生産が行われ、明治時代には特に厨房用粗陶品の産地として知られた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.city.kasama.lg.jp/page/page002072.html|title=笠間焼について|publisher=笠間市 |date= |accessdate=2023-09-04}}</ref>。 |
|||
; [[常滑焼]] |
|||
: 甕は中世常滑焼を代表する器種で12世紀から継続的に生産されてきた<ref>{{Cite journal|和書|author=青木修 |year=2012 |title=中世常滑窯における焼成器種とその形態的分類について |journal=愛知県史研究 |ISSN=18833799 |publisher=愛知県 |volume=16 |pages=175-188 |doi=10.24707/aichikenshikenkyu.16.0_175 |CRID=1390002184877997952 |ref=harv}}</ref>。
|
|||
== 用途 == |
|||
* 水甕<ref name="kamino" /> |
|||
* 酒甕<ref name="kamino" /> |
|||
* 便所甕<ref name="kamino" /> |
|||
* [[アイ (植物)|藍]]甕<ref name="kamino" /> |
|||
* 骨甕<ref name="kamino" /> |
|||
== 脚注 == |
|||
{{脚注ヘルプ}} |
|||
{{Reflist}} |
|||
== 関連項目 == |
|||
* [[肥前の大甕]] |
|||
* [[飯銅]] |
|||
* [[水琴窟]] |
|||
{{庭と庭園、園芸とガーデニング}} |
|||
⚫ | |||
[[category:考古学]] |
[[category:考古学]] |
||
[[category:容器]] |
[[category:容器]] |
||
[[category:醸造]] |
|||
[[category:焼酎]] |
|||
[[category:陶芸]] |
[[category:陶芸]] |
||
[[category:技術史]] |
[[category:技術史]] |
||
⚫ | |||
[[en:jar]] |
2024年1月5日 (金) 08:20時点における最新版
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/dc/%E7%93%B6%E3%82%92%E7%B8%84%E5%BC%B5%E3%82%8A%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%9F%E3%83%88%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%A8%E3%83%AB%E2%91%A07054572.jpg/300px-%E7%93%B6%E3%82%92%E7%B8%84%E5%BC%B5%E3%82%8A%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%9F%E3%83%88%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%A8%E3%83%AB%E2%91%A07054572.jpg)
器種[編集]
日本語には﹁壺﹂と﹁甕︵瓶、かめ︶﹂があり区別が困難な場合がある[1][2]。その例として﹁骨壺﹂と﹁骨甕﹂がある[1]。 考古学上は便宜的に、人類学者の長谷部言人が考案した正方形を九等分して土器の立面図とし、胴部と頸部の接する部分の幅が全体の3分の2以上のものを﹁甕﹂、3分の2に満たないものを﹁壺﹂とする目安が示されている[2]。長谷部の分類は甕、壺、深鉢、浅鉢、皿、高坏に分けるが、あくまでも目安であり、実際の現場や報告書ではこれとは異なる呼称を用いているものもある[2]。 縄文土器の場合、くびれがあるものは深鉢︵ふかばち︶を用いることが多い[2]。一方で﹁埋め甕﹂や﹁甕棺﹂などの呼称も慣用化されている[2]。西洋[編集]
ギリシャ[編集]
ギリシャの壺や鉢、甕にはラスターと呼ばれる僅かに光沢のある釉薬が施されている[3]。フランス[編集]
フランスで陶器が作られたのは12世紀とされ、壺や甕、施釉煉瓦やタイルなどが製造された[3]。中国[編集]
中国では比較的口の大きいものを﹁罐﹂と総称しており、日本でいう甕類や一部の壺類もこれに含まれる[4]。 ﹁瓮﹂は﹁甕﹂の簡略字である[4]。また、﹁甖﹂は甕類の総称とされるが、一部は御櫃として使用されていたという[4]。日本[編集]
甕類の種類については、大型の道明寺瓶︵どうみょうじがめ︶や、それより小型の酢瓶︵すがめ︶などがある[5]。また寸胴型に近い半胴瓶︵はんどうがめ︶があり、常滑焼では﹁半胴﹂﹁半銅﹂﹁半戸﹂﹁半ト﹂などの名称が用いられ、瀬戸焼︵赤津焼︶などでは﹁飯胴﹂などの名称が用いられた[5]。 沖縄県の泡盛や九州地方の焼酎のもろみ作りには現在も甕仕込みと称して使用されている例が多い。19世紀になると、薩摩の福山では薩摩焼の甕が黒酢のもろみを発酵させるのにも用いられた[6]。- 笠間焼
- 甕や摺り鉢などの日用雑器が作られ、幕末から明治時代には江戸に近い利点を活かして大量生産が行われ、明治時代には特に厨房用粗陶品の産地として知られた[7]。
- 常滑焼
- 甕は中世常滑焼を代表する器種で12世紀から継続的に生産されてきた[8]。