ターザン
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ターザン︵英‥Tarzan︶は、アメリカの小説家エドガー・ライス・バローズが創造した架空のキャラクター。小説ターザン・シリーズ、及び映画化作品の主人公を務めるが、脇役として登場する事もある。
本項では、まず小説版について説明する。映画版については、#映画、TVのターザン以降を参照。なお、日本語表記はハヤカワ文庫特別版SFに準じる。
小説版︵オリジン︶[編集]
小説版は多くの映画と違い、知的な面を持っている︵端的には、複数の言語を自在に操る︶。また、文明批判の目も厳しい。 本名はグレイストーク卿ジョン・クレイトン。イギリス人であり、その称号の示す通り貴族である︵ただし、命名されていないため、本名は父親の名をそのまま受け継いでいる︶。 なお、脇役として登場するのは、外伝的作品﹃石器時代から来た男﹄と、第4巻﹃ターザンの逆襲﹄、少年ものの﹃ターザンの双生児﹄2作("Tarzan and the Tarzan Twins"と"Tarzan and the Tarzan Twins with Jad-Bal-Ja, the Golden Lion")である。特徴[編集]
ターザンは野生児として育ったが、由緒正しい貴族の生まれである。彼の特徴は、外見︵外面︶と内面の両方に渡る。詳細は後述。 外見、能力の特徴 筋骨たくましい半裸の男性であり、怒ると額の古傷が赤く浮かび上がる[1]。もっとも、傷の存在は初期に顕著なものの、次第に忘れられていく。 超人的な戦闘力を持ち、ナイフとロープだけ、あるいはナイフだけでライオンを倒す。素手で類人猿を殺したこともある。 視覚、嗅覚、聴覚が鋭い。味覚に関しては独特で、調理済みの肉︵つまり料理︶よりも生肉を好み、味には無頓着である。 複数の言語︵人間以外の言語を含む︶に通じているほど、頭脳が明敏である。 内面 野性と文明社会のそれぞれに惹かれつつも、そのどちらにも馴染みきれない、という部分を持っている︵﹁イギリス貴族の息子にして野生児﹂という部分が、既に魅力と矛盾を秘めている︶。 当初は彼と家族に成長︵経年︶が訪れていたが、孫息子の登場︵第10巻﹃ターザンと蟻人間﹄︿1924年﹀︶を境に、ターザンから経年︵老化︶の兆候が見られなくなり、不老長寿、あるいは不老不死の様相を示してくる︵両親の船出が1888年5月[2]、結婚がその3ヶ月前[2]である事から、ターザンの生年は1889年、ないしは1888年である。後述のフィリップ・ホセ・ファーマーは1888年説を採っている模様︶。肉親の出番も見られなくなっていく。 なお、ターザンのモデルについては、ロムルスとレムス︵ローマ帝国の建国にかかわる兄弟で、﹁狼に育てられた﹂という伝説を持つ︶が、参考作品としては﹃ジャングル・ブック﹄︵ラドヤード・キップリングの小説︶が挙げられている。詳細はターザン・シリーズ#参考作品を参照。2大シリーズとの対比[編集]
他のバローズの長期シリーズである火星シリーズ︵1912年~︶、ペルシダー・シリーズ︵1914年~︶[3]の場合、主人公はその世界を紹介する側面がある。このため、ジョン・カーター︵火星︿バルスーム﹀大元帥︶、デヴィッド・イネス︵ペルシダー皇帝︶は、性格や思考は保守的︵中立的︶であり、物語の中では読者の分身として驚き役を示している[4] 。これに対し、ターザンは彼自身が驚異として読者の前に登場する︵つまり、タイトル通り、各シリーズの主役はバルスーム、ペルシダー、アムター︿金星﹀、ターザン、といえる︶。ただし、第8巻以降は、ほぼ﹁秘境もの﹂に転換し、読者の前には新たな世界が驚異として登場する。 また、ヒロインとの関係も象徴的である。3大シリーズの場合、物語は初期において一度完結する︵火星は3部作、本シリーズとペルシダーは2部作︶。火星、ペルシダーの第1巻では、ヒーローとヒロインは心を通わせるものの、何らかの物理的な要因で引き裂かれてしまう︵火星の場合は事故、ペルシダーの場合は狡猾なライバルの邪悪な企み︶。しかし、ターザンとジェーンは心を通わせあうものの、それぞれの思惑︵心理的要因︶によって別れることになる︵ジェーンには迷いがあり、ターザンは相手を愛するが故に別れを選ぶ︶。この辺りにも、ターザンというキャラクター︵物語︶の持つ複雑さが表れている。 とはいえ、火星、ペルシダーは最後までデジャー・ソリス、ダイアンがヒロインであり続けたのに対し、ジェーンの登場はほぼ第10巻までで、以後は﹃ターザンと女戦士﹄︵1936年〜1937年︶に﹁妻﹂が短い出番を与えられているのみ、となっている︵名前すら明記されていない︶。経歴・交友関係[編集]
ターザンの能力や家庭、友人、血縁など。能力[編集]
身体能力 ジャングルに適応した、超人的な体力・技術を有する。視覚、聴覚、嗅覚は鋭く、野生動物並みである。また、木立を伝って移動する、という﹁猿人﹂に相応しい能力を持つ。 ライフルなどの近代武器よりも、原始的な武器を好む。具体的には、狩猟ナイフ、ロープ、弓矢、槍が、標準的な装備である︵先の2点は18歳未満から使用しており、後の2点は18歳から使用。結果、成人後に会得した銃火器よりも馴染んでいるため、信頼性が高い︶。 10歳の時点で、既に腕力は並みの男性と互角であり、運動神経はスポーツの達人クラスに達していた︵例えば、木立から木立へ7メートルも飛ぶ︶。 言語 まず、類人猿の言語︵口語︶を習得。この言語は、他の類人猿の部族でも使われている他、オパルの住民︵アトランティスの植民地の末裔︶や、ペルシダーのサゴス族︵ゴリラ人間、と呼ばれる類人猿的存在︶も使用している。 次に英語︵文語のみ︶を独学で習得︵父が年単位での滞在を見越して、子供の教育用に絵本を用意し、また書物や辞書も残っていたため︶。活字体は覚えたが、筆記体は未習得。相手がいないため、口語も習得していない。なお、父親の日記はフランス語で書かれていたため、読めなかった。 成人後、フランス語の口語をポール・ダルノー中尉︵フランス海軍所属︶から教わる。その後、英語︵口語︶を習得したが、この時点では英語の口語は不得手だった︵以上、第1巻︶。 以後、ラテン語[5]、アラビア語[6]、ドイツ語[7]の他、スワヒリ語などアフリカの原住民の複数の方言など、数カ国語を習得する。出自[編集]
父は英国貴族、グレイストーク卿ジョン・クレイトン︵Lord Greystoke, John Clayton︶。母はアリス・ラザフォード︵結婚時、まだ10代だった︶[8]。夫妻は赴任先である英領西アフリカに向かう途中、船員の反乱に遭遇し、アフリカの西海岸に置き去りにされた。 ターザンは夫妻が海岸に作りあげた小屋で生まれ、彼が1才になった時に母親は亡くなった。父は類人猿カーチャク(Kerchak)に殺されたが、ターザンは類人猿カラ(Kala)に救われた。カラは子供を亡くしたばかりであり、群れのリーダーであるカーチャクに逆らい、ターザンの養母となった[9][10][11]。なお、﹁ターザン﹂とはカラがつけた名前で、類人猿の言葉で﹁白い肌(White-Skin)﹂を意味する。成人後、指紋鑑定でグレイストーク卿の息子と判明︵第1巻終盤にて︶、第2巻終盤以降は父の名を受け継いだ。 なお、第1巻冒頭では、﹁主要人物には架空の名前を用いる﹂と宣言されている[12]。ターザンの家庭[編集]
父 グレイストーク卿ジョン・クレイトン︵故人︶。 母 アリス・ラザフォード︵故人︶。 養母 カラ︵類人猿。死別︶。 妻 ジェーン・クレイトン︵旧姓ポーター︶。アメリカ人。第1巻で登場し、第2巻で結ばれる。 息子 ジャック・クレイトン。シリーズでは第3巻﹃ターザンの凱歌﹄から登場し、第4巻﹃ターザンの逆襲﹄では主役を務める︵正確には、シリーズの外伝的な作品﹃石器時代から来た男﹄の第1部が初出である︶。 成長後は、コラク︵類人猿の言葉で﹁殺し屋﹂︶と呼ばれる勇ましい戦士となった。メリームを妻としている。 息子の妻 メリーム。初登場時は第4巻のヒロイン。本名はジャンヌ・ジャコー︵ただし、結婚前の姓名︶。 アラブ人の養女としてジャックと知り合い、恋に落ちる。実は7歳の時に誘拐されたフランス人︵フランス王家の血筋にあたる︶。 孫 第10巻﹃ターザンと蟻人間﹄に登場。ジャックとメリームの子供。男の子、というだけで名前は不明[13]。 ライオン 名前はジャド・バル・ジャ︵パル・ウル・ドンの言語で﹁黄金のライオン﹂︶。第9巻﹃ターザンと黄金の獅子﹄から登場。 幼い頃、ターザンに拾われて養育され、心強い友人として成長した。ターザンの命令には忠実に従う。パル・ウル・ドンからの帰路に拾ったため、ターザンはその言語で名前をつけた。 家政婦 筆頭はエスメラルダ。大柄な黒人女性で、第1巻で初登場。この時はポーター家の家政婦であり、ジェーンの母代わりといえる存在だった︵ジェーンの実母は、幼少時に死亡︶。 ジェーンの結婚後は、グレイストーク家の家政婦となり、ジャック誕生後は乳母となっている[14]。第3巻では、ターザンとジェーンが不在のため、機転を利かし、独断でジャック誘拐事件を解決へ導いている。 部下の部族 ワジリ族。勇敢で知的な黒人の一族で、第2巻から登場。ターザンと意気投合し、共闘した仲。 前族長︵ワジリ︶の死後、ターザンを族長として迎え入れ、忠実な部下となった。ターザンの親類、縁者[編集]
ディックとドック ディック、ドックとも、ターザンの遠縁にあたるが、ドック自身とターザンに直接の血縁関係はない。﹁ターザンの双生児 (The Tarzan Twins) ﹂と呼ばれる少年たちで、実際は従兄弟同士。双子ではないが、双子のようによく似ている︵彼らの母親が、アメリカ生まれの双生児だった︶。 ドックの母はアメリカで結婚し、ディックの母はイギリス人︵ターザンの遠縁に当たる︶と結婚してイギリスに移り住んだ。2人は、同年同日生まれの子供たちを同じ学校で教育を受けさせようとし、彼らが14歳になった時、イギリスの名門校に入学させた。 髪の色の明るいドックは﹁ターザン・タル︵白︶﹂、髪の色が黒いディックは﹁ターザン・ゴ︵黒︶﹂と呼ばれる[15]。 少年向け短編2編("Tarzan and the Tarzan Twins"と"Tarzan and the Tarzan Twins with Jad-Bal-Ja, the Golden Lion")で主役を務める。アメリカではターザン・シリーズには含めないが、ハヤカワ文庫版では第11巻﹃ターザンの双生児﹄として刊行されている︵2編とも収録されている︶。 ウイリアム・セシル・クレイトン ターザンの従兄弟。第1巻、第2巻に登場。彼の父はグレイストーク卿︵ターザンの父︶の弟で、グレイストーク卿失踪後、その後継者となっていた。父の死後、彼がグレイストーク卿を引き継いでいる。ターザンの恋敵でもあった。 13世紀のグレイストーク卿 未訳の﹃トーンの無法者﹄("The Outlaw of Torn")に登場。ターザンの先祖にあたる。 ﹃トーン~﹄はバローズの第2作であり、第3作がターザン・シリーズの第1巻である。友人[編集]
前述のダルノー中尉は、第1巻で親友となった。交際は以後も続き、第4巻﹃ターザンの逆襲﹄ではフランス海軍の提督となっており、メリームと親族の再会に一役買っている。しかし、﹃ターザンと禁じられた都﹄︵1938年︶で久しぶりに登場した際は、海軍大尉だった。 ﹃石器時代から来た男﹄には、アメリカ人バーナード︵バーニー︶・カスターと、その妹のヴィクトリア・カスター、彼らの友人でルータ王国︵バローズの創り出した架空の国家︶の軍人であるバッツォー中尉が登場した。ヴィクトリアは当該作のヒロインであり、バーニーは﹃ルータ王国の危機﹄の主人公である。﹃石器時代から来た男﹄でのターザン[編集]
全2部で構成されている﹃石器時代から来た男﹄は、ターザン・シリーズの第2巻と第3巻の間に位置している︵実際に登場するのは第1部のみ。第2部は、第3巻の後で発表された︶。 ターザンとジェーンが結ばれたのは、第2巻のラストだが、ここではそれから1年ほどが経過していると見え、愛息子ジャックが誕生し、エスメラルダが乳母を務めている。ターザンは﹁かつて猿人ターザンと呼ばれた﹂[16]と説明され、ターザンと書かれている場面[17]は少なく、ほぼ﹁グレーストーク︵もしくはグレーストーク卿︶﹂[18]や﹁クレートン﹂[19]と呼ばれ、それに相応しい衣服を身にまとっている。一方で、ジェーンは﹁グレーストーク夫人﹂[20]と表現され、家庭に収まっており、あまり目立たない。また、悪漢の討伐に際しても、ターザンは半裸になることも単独行動を取ることもなく、集団でライフルを抱えて行動している[21]。さらに、自分の感覚よりも﹁常識﹂を優先して判断している[22]、など、現役の猿人︵第2巻までと、第3巻以降︶とは違った描写がなされている。 しかし、第2部のラスト︵15.洞窟の秘密︶にてドンデン返しがあり、第1部のほとんどは﹁なかったこと﹂にされている。なお、リチャード・A・ルポフによると、﹃石器時代から来た男﹄の主人公である原始人ヌーは、猿人ターザンの同類︵分身︶である[23]。ターザンの﹁伝記﹂[編集]
本節は、﹃恐怖王ターザン﹄に寄せた森優の解説、﹁ターザンは実在する?﹂による[24]。 アメリカのSF作家フィリップ・ホセ・ファーマーは、ターザンの伝記として﹃実在するターザン─グレイストーク卿の決定的伝記﹄を執筆、ダブルディ社から出版された。これは、﹁バローズの作品︵ターザン・シリーズ︶はフィクションとして綴られ、資料が少ない部分は想像で補ったため、矛盾などの不備がある﹂とし、﹁この伝記では、彼の切り捨てた資料等で補遺している﹂、というスタンスである。また、﹁実際にターザンに会い、インタビューした﹂とも書かれている。 インタビューの場所は、ガボンのリバーヴィルにあるホテルで、﹁写真も撮らず、録音もしない﹂と条件がつけられていた。インタビュー当時、ターザンは80歳であったが︵当該作では、生年は1888年とされている模様︶、35歳くらいにしか見えなかったという。この若さは、1912年1月にウガンダで助けたまじない師から渡された秘薬によるもの、と説明されている。 また、ファーマーがターザンの家系を8世分、遡って調査したところ、血縁にシャーロック・ホームズ、パーシー・ブレイクニー准男爵、ドック・サヴェジ、ネロ・ウルフ、ピーター・ウィムジイ卿、ブルドッグ・ドラモンドらがいることが判明した。彼ら英傑の由来としては、1795年にイギリスに落ちた隕石による突然変異、と説明されている。 なお、本作は早川書房が版権を取得し、﹁ハヤカワ版︵TARZAN BOOKS︶完結の暁には、シリーズ別巻として刊行される﹂、と予告されていたが、未訳のままである︵2011年9月現在︶。映画、TVのターザン[編集]
映画のターザンは、陽性のヒーローとして登場する︵ただし、﹃グレイストーク -類人猿の王者- ターザンの伝説﹄︵1983年︶ Greystoke: The Legend of Tarzan, Lord of the Apes のような、原作重視の例外も存在する︶。ジャングルの王者として君臨し、密猟者や秩序を乱す猛獣に鉄槌を下す。また、多くの場合、言語に不自由で、片言しか︵英語、ないしは人間の言葉を︶喋れない。マスコットとしてチータ︵チーター︶というチンパンジーを連れている場合もあるが、原作には登場していない︵そもそもチンパンジーが登場しない︶。ただし、それに類する小猿は登場しており、ンキマという小猿が複数回、登場している。 エルモ・リンカーンが主演したサイレント映画﹃ターザン﹄︵1918年︶を皮切りに、数多くの映画が製作され、ターザンの名は一躍有名になった。1918年〜1958年の40年間で32本のターザン映画が製作され、その興行収入は累計5億ドル、観客動員数は累計20億人に達した[25]。中でも﹃類猿人ターザン﹄︵1932年︶をはじめとするジョニー・ワイズミュラーのターザンは有名である。ワイズミュラーは水泳の金メダリストであり、元は俳優ではなかったが、そのぎこちなさ故に、野生児としてのターザンはハマリ役だった[26]。 ワイズミュラー映画で有名な﹁アーア・アー﹂というターザンの雄叫びは、豹の鳴き声など十数種の音源をミックスしてMGMの特殊効果部が作り上げた。今日ではロープに掴まって対岸に渡る時の掛け声となっている。 なお、ワイズミュラーは1971年の世界SF大会︵に参加した、バロウズ・インコーポレイテッド[27]の︶主催の昼食会に主賓として招かれたが、70歳を過ぎている[28]にもかかわらず若々しく︵ただし、髪は白髪になり、顔はシワが増えていた︶、矢野徹から﹁ターザン・シリーズの日本での翻訳が開始された﹂と知らされると、非常に喜んでいた[29]。映画化への道のり[編集]
ロバート・フェントンによると、1914年春、バローズが妻とカルフォルニア州サンディエゴで休暇がてら第3作﹃ターザンの凱歌﹄を執筆していた時、ニューヨークのジョゼフ・W・スターン商会から連絡があり、映画化の話が持ち上がったのがきっかけである[30]。 この企画は流れたが、バローズは自作の映画化への可能性を知る。シカゴへ帰った彼は、ニューヨークのオーサーズ・フォトプレイ・エージェンシーに﹃類猿人ターザン﹄の映画化への売込みを依頼した。また、出版社A・C・マックラーグとは、劇化・映画化の際の著作権が著作者に帰属する契約書を交わしている︵ただし、第2作﹃ターザンの復讐﹄以降分︶[31]。 しかし、映画化の話は思うように進まず、バローズは直接行動に出る。ウィリアム・N・セリグ大佐︵シカゴにある、セリグ・ポリスコープ・カンパニーの社長︶に、﹃類猿人ターザン﹄と、未発表の原稿1本︵﹃砂漠のプリンス﹄ (The Lad and the Lion)︶を送りつけたところ、セリグは﹃砂漠のプリンス﹄に興味を示し、500ドルで映画化権を購入する︵1915年1月︶[32]。 バローズはさらに2本ほどセリグに送り、ユニヴァーサル・フィルムズやアメリカン・フィルム・カンパニー等にも打診するが、全て断られてしまう。﹁小説としては面白いが、映画には向かない﹂と酷評も受ける[33]。 1916年6月、シカゴのウィリアム・パーソンズと﹃類猿人ターザン﹄の映画化権に関する契約を取り付ける。しかし、パーソンズは映画業界の素人であり、計画は頓挫しかける。10月末、なんとかパーソンズの会社が設立され、映画完成への目途がつく[34]。 1917年4月、セリグ・プロの映画﹃砂漠のプリンス﹄︵主演、ヴィヴィアン・リード︶が公開され、好評を得る。ただし、原作者の意向が無視されたため、バローズは複雑な思いだった[35]。映画︵第1作︶のエピソード[編集]
本節はエドガー・ライス・バロウズ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫SF﹀、1972年、森優、300-301頁による。 撮影 主としてルイジアナ州で行われた。 実際の動物のシーンやジャングルのシーンは、ブラジルで撮影されたものが使用された。 類人猿のシーンは着ぐるみを使用し、ニューオルリーンズの体育クラブのメンバーを雇った。枝から枝へ飛び移るシーンの他、カラ︵養母︶が幼いターザンを養育するシーンも、彼らが行っている。 主演 当初はウィンスリー・ウィルスンが演じる予定だった。しかし、パーソンズが資金繰りに困っている間に徴兵され、第一次世界大戦に出兵した。エルモ・リンカーンは、代役である。 エルモ・リンカーン エルモは役に相応しい、強い男性だった。また、彼は非常に毛深い男性であり、日に2回は体毛を剃らないと、類人猿に見間違われそうだった︵子役としてターザンの少年期を演じた、ゴードン・グリフィスによる回想︶。 映画は大ヒットし、本作で大スターとなった。 ストーリー ほぼ原作通り。ただし、以下の2点で大きく異なる。 ●会話を教わるのはフランス軍人のダルノー中尉ではなく、ビンスという船員︵両親の友人で、イギリス人︶。教わる言葉も、フランス語ではなく英語である。 ●ジェーンと結ばれる。 宣伝、成績 チンパンジーをシルクハットとタキシードで正装させ、一流ホテルのロビーに登場させた。これが新聞で大きく報道され、映画も大ヒットとなった。 新聞・雑誌︵ニューヨーク・タイムズ、シカゴ・ジャーナル、モーション・ピクチャー・マガジンなど︶の反応も良く、興行収入は100万ドルを突破した。﹁最初に100万ドルを突破した6作品﹂のひとつとして数えられる。原作者の不満[編集]
映画﹃ターザン﹄は、自身の意向が反映されず︵バローズはパーソンズの会社の重役であるにもかかわらず︶、さらには支払いのトラブルにより、パーソンズとの仲が冷えてしまった[36]。映画のターザンは自分のイメージと違っていたため、落胆した、とも言われている[37]。 MGMのターザン映画に不満だったバローズは自ら映画会社を興し、ハーマン・ブリックス主演の連続活劇を製作した。ターザン映画・TVの一覧[編集]
︵︶内はターザン役。 ●ターザン (1918) Tarzan of the Apes ︵エルモ・リンカーン (Elmo Lincoln)︶ ●続編ターザン (1918) The Romance of Tarzan ︵エルモ・リンカーン︶ ●ターザンの復讐 (1920) The Revenge of Tarzan ︵ジーン・ポラー (Gene Pollar)︶ ●ターザン第二世 (1920) Son of Tarzan ︵P・デンプシー・タブラー (P. Dempsey Tabler)︶ ●大ターザン (1921) The Adventures of Tarzan ︵エルモ・リンカーン︶ ●獅子王ターザン (1927) Tarzan and the Golden Lion ︵ジェームズ・ピアース (James Pierce)︶ ●巨人ターザン (1928) Tarzan the Mighty ︵フランク・メリル (Frank Merrill)︶ ●猛虎ターザン (1929) Tarzan the Tiger ︵フランク・メリル︶ ●類猿人ターザン (1932) Tarzan the Ape Man ︵ジョニー・ワイズミュラー (Johnny Weissmuller)︶ ●蛮勇タルザン (1933) Tarzan the Fearless ︵バスター・クラブ (Buster Crabbe)︶ ●ターザンの復讐 (1934) Tarzan and His Mate ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンの新冒険 (1935) New Adventures of Tarzan ︵ハーマン・ブリックス︵ブルース・ベネット︶ (Herman Brix - Bruce Bennett)︶ ●ターザンの逆襲 (1936) Tarzan Escapes ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●大ターザン (1938) Tarzan's Reveng ︵グレン・モリス (Glen Morris)︶ ●鉄腕ターザン (1938) Tarzan and the Green Goddess ︵ハーマン・ブリックス︶ - 日本公開は第二次世界大戦後の1946年となった[38]。 ●ターザンの猛襲 (1939) Tarzan Find's a Son ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンの黄金 (1941) Tarzan's Secret Treasure ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザン紐育へ行く (1942) Tarzan's New York Adventure ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンの凱歌 (1943) Tarzan Triumphs ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザン砂漠へ行く (1943) Tarzan's Desert Mystery ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●魔境のターザン (1945) Tarzan and the Amazons ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンと豹女 (1946) Tarzan and the Leopard Woman ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンの怒り (1947) Tarzan and the Huntress ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●絶海のターザン (1948) Tarzan and the Mermaids ︵ジョニー・ワイズミュラー︶ ●ターザンと魔法の泉 (1949) Tarzan's Magic Fountain ︵レックス・バーカー (Lex Barker)︶ ●ターザンと女奴隷 (1950) Tarzan and the Slave Girl ︵レックス・バーカー︶ ●ターザンと密林の王女 (1951) Tarzan's Peril ︵レックス・バーカー︶ ●ターザンの憤激 (1952) Tarzan's Savage Fury ︵レックス・バーカー︶ ●ターザンと巨象の襲撃 (1953) Tarzan and the She-Devil ︵レックス・バーカー︶ ●ターザンと隠された密林 (1955) Tarzan's Hidden Jungle ︵ゴードン・スコット (Gordon Scott)︶ ●ターザンと消えた探検家 (1957) Tarzan and the Lost Safari ︵ゴードン・スコット︶ ●ターザンの激闘 (1958) Tarzan's Fight for Life ︵ゴードン・スコット︶ ●ターザンの決闘 (1959) Tarzan's Greatest Adventure ︵ゴードン・スコット︶ ●類猿人ターザン (1959) Tarzan, the Ape Man ︵デニー・ミラー (Denny Miller)︶ ●ターザン大いに怒る (1960) Tarzan the Magnificent ︵ゴードン・スコット︶ ●ターザン (1961) Tarzan ︵テューダー・オーウェン(Tudor Owen)声優として︶ ●ターザンと猛獣の怒り (1962) Tarzan Goes to India ︵ジョック・マホニー (Jock Mahoney)︶ ●ターザン三つの挑戦 (1963) Tarzan's Three Challenges ︵ジョック・マホニー︶ ●ターザン (1966~1969) Tarzan ︵TVシリーズ︶ ︵ロン・エリー (Ron Ely)︶ ●ターザンと黄金の谷 (1966) Tarzan and Valley of Gold ︵マイク・ヘンリー (Mike Henry)︶ ●ターザンと断崖の怒り (1967) Tarzan and the Great River ︵マイク・ヘンリー︶ ●ターザンの大逆襲 (1968) Tarzan and the Jungle Boy ︵マイク・ヘンリー︶ ●類猿人ターザン (1981) Tarzan the Ape Man ︵マイルズ・オキーフ (Miles O'Keeffe)︶ ●グレイストーク -類人猿の王者- ターザンの伝説 (1983) Greystoke: The Legend of Tarzan, Lord of the Apes ︵クリストファー・ランバート (Christopher Lambert)︶ ●ターザン ニューヨークへ行く (1989) Tarzan in Manhattan ︵ジョー・ララ︶ ●ターザン (1991~1994) Tarzan ︵TVシリーズ︶ ︵ウルフ・ラーソン (Wolf Larson)︶ ●ターザン・リターンズ (1996) Tarzan: The Epic Adventures ︵ジョー・ララ︶ ●ターザン 失われた都市 (1999) Tarzan and the Lost City ︵キャスパー・ヴァン・ディーン (Capser Van Dien)︶ ●ターザン︵アニメ映画︶ (1999) -ディズニーの長編アニメ映画。︵トニー・ゴールドウィン (Anthony ("Tony") Howard Goldwyn)声優として︶ ●ターザン (2001)"The Legend of Tarzan" - 上記のTVシリーズ。︵マイケル・T・ウェイス︶ ●ターザン&ジェーン︵OVA︶ (2002) - 上記の映画の続編。︵マイケル・T・ウェイス︶ ●ターザン2︵OVA︶ (2005)︵ハリソン・チャド︶ ●Tarzan︵3Dアニメ映画︶ (2013) Tarzan ︵ケラン・ラッツ (Kellan Lutz)︶ ●ターザン:REBORN (2016) The Legend of Tarzan (アレクサンダー・スカルスガルド (Alexander Skarsgard)︶影響[編集]
﹁ターザン﹂をタイトルにしているものに、以下の事例がある。 ●ターザン (雑誌) - 日本の出版社マガジンハウスが発行する雑誌。エドガー・ライス・バローズ社と契約して名称を使用している。 ●TARZAN - 吉川晃司のアルバム。 ●ターザン&ジェーン - トーイ・ボックスのシングル。 芸名の一部として使用しているものに、以下の人物がいる。 ●ターザン・タイラー - カナダのプロレスラー。ターザン・ボロ、ターザン・トゥールヴィルというリングネームもある。 ●ターザン後藤 - 日本のプロレスラー。 ●ターザン山本 - 週刊プロレスの編集長などを務めたスポーツライター。 ●ターザン山下 - ラジオDJ、ナレーター。 いわゆるターザンもの・派生型とでもいうべき分野の漫画、小説、アニメがある。 ●ジャングル大帝 - 手塚治虫の原作漫画。 ●少年ケニヤ - 山川惣治作の新聞連載の絵物語、テレビドラマ、劇場用アニメ。 ●狼少年ケン - 東映動画のテレビアニメーションシリーズ、月岡貞夫。 ●新寶島 - 手塚治虫、酒井七馬による赤本漫画。 そのほかにもターザン的な作品はある。脚注[編集]
作者の日本語表記については表記ゆれがあり、早川書房︵ハヤカワ文庫︶は﹁エドガー・ライス・バロウズ﹂、東京創元社︵創元推理文庫、創元SF文庫︶は﹁エドガー・ライス・バローズ﹂となっている。
(一)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃類猿人ターザン﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1971年、370頁。同書148頁で受けた傷。
(二)^ ab﹃類猿人ターザン﹄ 13頁。
(三)^ 金星シリーズは開始時期が遅く︵1932年~︶、またバローズも作家として成熟しているため、ここでは比較から除外した。
(四)^ デヴィッド・イネスは﹁ボクシングと投球の得意な、若き鉱山主︵富豪の息子︶﹂であり、ジョン・カーターの超人的な跳躍力・腕力は、火星の弱い重力の賜物である︵ただし、ジョン・カーターの星間移動能力は、超能力のレベルを超えたものであり、十分に驚嘆すべきである。しかし、彼がそれを行使するのは、物語の本筋には関係ない部分、すなわち、﹁地球にいるバローズに、物語を教える﹂場面に留まっている。また、彼は不老長寿、あるいは不老不死である︶。なお、ペルシダーには時間経過の概念がないため、デヴィッドらに老化の兆候は見られない
(五)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃ターザンと失われた帝国﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1974年、73頁。
(六)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃ターザンの復讐﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1971年、162頁。
(七)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃野獣王ターザン﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1972年、156頁。
(八)^ ﹃類猿人ターザン﹄ 208頁。
(九)^ ﹃類猿人ターザン﹄ 62頁では、カーチャクとカラ。
(十)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃地底世界のターザン﹄ 佐藤高子訳、早川書房︿ハヤカワ文庫SF﹀、1971年、77頁では、ケルチャックとカーラ。
(11)^ エドガー・ライス・バローズ ﹃ターザン﹄ 厚木淳訳、東京創元社︿創元SF文庫﹀、1999年、59頁では、カーチャクとカーラ。
(12)^ ﹃類猿人ターザン﹄ 11頁。
(13)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃ターザンと蟻人間﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1973年、10頁。
(14)^ エドガー・ライス・バローズ ﹃石器時代から来た男﹄ 厚木淳訳、東京創元社︿創元推理文庫﹀、1977年、28頁。
(15)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹃ターザンの双生児﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、1976年、13頁
(16)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 21頁。
(17)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 43頁。
(18)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 21頁、42頁、44頁、48頁、53頁-56頁、58頁、65頁、74頁、75頁、83頁、86頁、87頁、89頁、95頁、103頁、272頁、274頁、原文ママ。
(19)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 24頁、56頁、原文ママ。
(20)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 26頁、28頁、39頁、41頁。
(21)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 86頁、103頁。
(22)^ ﹃石器時代から来た男﹄ 43頁、83頁。
(23)^ リチャード・A・ルポフ ﹃バルスーム﹄ 厚木淳訳、東京創元社、1982年、234頁。ただし、主人公名は明記されていない。
(24)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹁ターザンは実在する?﹂﹃恐怖王ターザン﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫SF﹀、1972年、森優、325-328頁。
(25)^ ﹁ターザン生れて40年20億人が楽しむ おなじみの軽業・叫び声﹂﹃読売新聞﹄1958年7月22日付夕刊、4頁。
(26)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫SF﹀、1972年、森優、294-295頁。
(27)^ バロウズの著作権を管理する法人。
(28)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 296頁より、原文ママ。しかし、1904年6月2日生まれなので、実際は、まだ60代であった。
(29)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 294-296頁。
(30)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 296-297頁。
(31)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 297頁。
(32)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 297-298頁。
(33)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 298頁。
(34)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 298-299頁。
(35)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 299-300頁。
(36)^ ﹁ターザン、フィルムランドへゆく﹂﹃ターザンとアトランティスの秘宝﹄ 300頁。
(37)^ エドガー・ライス・バロウズ ﹁史上最大最高の冒険ヒーロー﹂﹃類猿人ターザン﹄ 高橋豊訳、早川書房︿ハヤカワ文庫特別版SF﹀、森優、1971年、383-384頁。
(38)^ 世相風俗観察会﹃増補新版 現代世相風俗史年表 昭和20年︵1945︶-平成20年︵2008︶﹄河出書房新社、2003年11月7日、14頁。ISBN 9784309225043。
外部リンク[編集]
- ターザン・シリーズ(TARZAN series)(原作について)
- Documentary 52': I, Tarzan(ビデオ)