さい果ての星の彼方に
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(ポロダ星での冒険から転送)
﹃さい果ての星の彼方に﹄︵さいはてのほしのかなたに、英: Beyond the Farthest Star︶は、エドガー・ライス・バローズによるアメリカのSF小説。全2部からなるが、未完。
概要[編集]
第1部﹁ポロダ星での冒険﹂︵雑誌掲載は1942年︶、第2部﹁タンゴール再登場﹂︵バローズの死後発見された︶からなるが、実際は未完。単行本収録は1964年︵カナベラル社﹃金星の魔法使﹄に併録︶。日本語版は、東京創元社の創元推理文庫SFからそのまま翻訳されており、リチャード・A・ルポフの﹁解説﹂も含めて収録されている。翻訳は厚木淳、挿絵、カバーイラスト、口絵は武部本一郎、1970年9月11日︵ただし、カバーイラストと口絵は、表題作﹁金星の魔法使﹂︶。 バローズの作品としては、最後期のものとなる。彼の作品として見た場合、本作の最大の特徴は他の恒星系を舞台にしている点で、なおかつ架空の天体であり、その意味では唯一無二の作品である。舞台となるポロダ星は、オモスという恒星の周囲を公転しており、オモス星系には全部で11の惑星があるのだが、全てが同一の公転軌道を描いているのが特徴となっている[1]。初期の発想では、﹁公転軌道に大気圏がドーナツ状に展開し、全惑星で共有している﹂とされ、飛行機で惑星間を移動する、というアイディアもあったようだが、これは放棄された[2]。オモス星系︵球状星団NGC7006︶や言語は詳細に設定されており、火星、金星のような長期シリーズ化を構想していたといわれる[3]。 ﹁死に瀕した軍人︵元軍人︶が、裸で他の惑星に現れる﹂、という点では処女作﹃火星のプリンセス﹄と同じだが、火星シリーズの主人公ジョン・カーターと異なり、本作の主人公タンゴールはバローズと面識はなく、情報は﹁タイプライターが自動筆記される﹂という、不気味な方法で伝達されている。 また、厭戦的な雰囲気の漂う作風は、火星シリーズの夢想的︵牧歌的︶な作風︵戦争や決闘は名誉なこと︶とは大幅に異なっている。本作では、100年も続く戦争が、かなり現実的に描写されている。例えば、プノス国は﹁執拗な爆撃で文明が崩壊し、人喰いをしなければ生きていけない﹂という悲惨な状況に陥っている。主人公の属するユニス国では、戦死者が月平均10万人であり、多い時は50万人に達する。個人に目を移すと、ハーカス・イェンの妻は14男6女を産んだが、13番目までの男児は戦死しており、十四男は軍務に服している。また、衣装は、全身タイツのような物が2着︵国家元首クラスでも3着︶しか、生涯に持てない。これは、金属に似たプラスティック製の物で壊れることがなく、持ち主が死亡すると売りに出される。これに顕著なように、娯楽には精力が割かれておらず、二言目には﹁戦争だから﹂、﹁戦争だもの﹂と、半ば諦めたような、思考停止状態の言葉を述べる。しかし、この戦争はユニスにとっては自衛のためであり、ユニス人の戦意は高い。補足[編集]
H・H・ヘインズの作品番号では、﹁ポロダ星での冒険﹂は101であり、﹁タンゴール再登場﹂はリストにない。総作品数は109︵ただし、ナンバーのない"You Lucky Girl!"もリストにある︶[4]までリストアップされているが、未掲載の作品が3作ある︵﹁タンゴール再登場﹂、﹃カリグラ帝の野蛮人﹄、"Pirate Blood"︶。 本作以前で、異星を舞台にしたものは3つある︵火星シリーズ、金星シリーズ、月シリーズ︶。登場する星は5つで、内訳は、惑星3︵火星、木星、金星︶、衛星2︵月、フォボス︶である。しかし、金星︵アムター︶は分厚い雲に覆われ、滅多に直射日光の射さないという設定であり、地球人である主人公カースン・ネイピアは、装置類を使用せずに呼吸でき、気圧も地球と変わらないように見える。また、月シリーズの場合、全3部のうち登場するのは第1部のみで、しかも地球空洞説を応用した空洞世界になっている。フォボスに至っては、﹁接近すると大きさが縮む﹂という設定になっており、本作以外でも、オリジナル設定の目立つ星は登場している。ストーリー[編集]
導入部として、ハワイに住む﹁わたし﹂の目の前で﹁タイプライターが自動筆記される﹂という場面が存在する︵第1部、第2部とも︶。
第1部
主人公のタンゴールは、1939年9月にドイツ戦線で3機のメッサーシュミットと交戦、2機を撃墜したものの自機も被弾し、自身も致命傷を負う。落下の最中に気を失い、気がつくと見慣れない植物園のようなところにいた。傷はなく、しかも全裸で。彼は捕えられたが言葉が通じず、精神分析学者ハーカス・イェンに預けられる。ユニス国の言葉を覚え、精神病患者でないと判明したタンゴールは、ハーカス・イェンの家に招かれ、そこで4週間ほど過ごした。彼が現れて6週間後、裁判にかけられ、カパラ人のスパイではないと判り、彼は市民権を得る。彼は戦闘機パイロットを志願したが、配属されたのは労働部隊で、爆撃の跡を修復する係だった。重労働を繰り返す日々が過ぎ、彼は国防長官から呼び出され、パイロットへの転向を認められる。
ユニスはカパラから侵略を受けており、その戦いは100年続いていた。生活の全ては戦争を基準にしており、ハーカス・イェンの妻は14男6女を産んだが、13人の男児は戦死していた。それでも﹁戦争だから﹂、﹁戦争だもの﹂と、ユニス人は耐え忍び、勝利を目指す。
タンゴールはパイロットとして活躍する中、何度か撃墜も体験するが、その度に生還した。何度目かの帰還中に、彼はハーカス・イェンの娘であるヤモダが、怪我をして倒れているのを発見する。飛行機で急いで病院に運び、手術を待つタンゴールの前に、ヤモダの母が現れる。今度ばかりは、彼女も飛行機に憤りを示した。戦争は、飛行機が悪化させたのだ。そして、今度は娘の命まで奪おうとしている。しかし、ヤモダは助かった。少なくとも、今回ばかりは飛行機が命を救ったのだ。その時、空襲警報が鳴った。
第2部
敵空襲を撃退したタンゴールは、カパラが開発中の宇宙航行の秘密を盗むため、スパイとして潜入する。折りしも、国防長官の職員であるモーガ・サグラが亡命を希望しており、彼はその計画に乗るふりをしてカパラへ渡る。しかし、独裁国家カパラはユニスよりもさらに荒廃し、秘密警察が横暴な権力を行使していた。任務のため、同胞のユニス人からも売国奴と疑われながら、タンゴールは権力と戦い、時には追従しながら、ついに秘密を盗んで生還する。
帰国後、彼はハーカス家から白い目を向けられるが、それは誤解から生じたものだった。誤解は解け、彼は隣の惑星へ探査に出る任務を受けた。