基礎体温
表示
基礎体温︵きそたいおん︶とは、恒温動物において、活動による体温変化などの要因を排除し、生命維持に必要な最小限のエネルギーしか消費していない安静状態で測定した体温のことである。
![](//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/95/MenstrualCycle_ja.png/350px-MenstrualCycle_ja.png)
月経周期における卵巣・基礎体温・ホルモン分泌・子宮内膜などの変化
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/95/MenstrualCycle_ja.png/350px-MenstrualCycle_ja.png)
人間[編集]
基礎体温は、女性では排卵サイクルとの関連が深い。そのため、妊娠希望の夫婦が性交のタイミングをとる目安、非妊娠希望者の避妊の参考、月経不順の原因分析や経過観察など、さまざまな目的で利用される。 具体的な測定は、十分な睡眠をとった起床直後、布団に寝たままの状態で、口︵舌下︶において目盛りの細かい基礎体温用の体温計︵婦人体温計︶で行う。計測した毎朝の基礎体温は、グラフにして記録する。月経周期と基礎体温[編集]
正常な排卵が行われている健康な女性では、基礎体温は、月経周期内で﹁低温期﹂と﹁高温期﹂に分かれた二相性になる。 卵胞期 生理開始~排卵までの間。基礎体温は低温相を示す。次の排卵のための卵胞が卵巣内で育っていき、子宮内膜を厚くするための卵胞ホルモン︵エストロゲン︶が分泌される。低温期が続く日数は、各人の月経周期の長さによって異なる。 排卵期 排卵を境に、基礎体温は約0.3~0.5℃上昇し、低温相から高温相へと移行する。 黄体期 排卵後~次の月経開始までの間。基礎体温は高温相を示す。正常なら、月経周期の長さの個人差にかかわらず、誰でも約2週間。排卵後の卵巣で卵胞が黄体へと変化し、子宮内膜を成熟させて妊娠に適した状態を維持する黄体ホルモン︵プロゲステロン︶が分泌され、これが基礎体温の高温相をもたらす。妊娠が成立すればそのまま黄体ホルモンの分泌が維持されて高温相が続くが、妊娠しなければ黄体の寿命が尽きたところで子宮内膜が剥がれ落ちて月経が開始し、それとともに基礎体温も下がる。排卵日の推定[編集]
上記のしくみを利用して、妊娠あるいは避妊のために排卵日を知る参考とすることができる。 妊娠目的 普段の月経周期より推測して排卵期が近づいていると思われる時期から、基礎体温が高温期に移行し排卵が終わったと確認できるまでの期間に特に性交を持っていけば、妊娠の可能性が高まる。なお、一般に﹁低温期の終わりでガクンと体温の下がった日︵陥落日︶が排卵日﹂と認識している人も多いが、陥落日は誰にでも必ず現れるとは限らず、また、現れても排卵日と一致しているかどうかは分からない[1]。実際には、排卵は低温期の終わり頃の数日~高温期に入った直後くらいまでのどこかで行われていて、推定にはある程度の幅を伴い、便宜的には一番可能性の高い﹁低温期の最後の日︵=高温期に入る前日︶﹂を排卵日とみなす。基礎体温からは排卵した事後にしか排卵日の情報が得られないため、事前の排卵予測には、排卵検査薬や頚管粘液法などの併用が有効。 避妊目的 高温相が4日以上続いて、完全に排卵期が終わってしまったと確認できた後~次の月経開始までの約10日間ほどが、俗に言われる﹁安全日﹂に当たる。ただし、風邪や測定ミスなどで高温期に入ったと思っていたのが実際には違っていたり、まれに黄体期にも重ねて排卵が起きてしまうケースもあるので、要注意。妊娠時の基礎体温[編集]
妊娠確定前 排卵後、妊娠しなければ黄体の寿命が尽きて12~16日ほどで月経が始まるが、妊娠が成立すると絨毛から分泌されるhCGが黄体の分解を防いで寿命を伸ばし、子宮内膜を保って着床状態を維持するために黄体ホルモンの分泌を継続する。そのため、妊娠した場合には、通常より長く高温期が続く。高温期が18日以上続いたあたりから妊娠の可能性を考えはじめ、妊娠検査をしてみるとよい。なお、着床してhCGの刺激により黄体ホルモンの分泌が活発化した排卵1週間後以降くらいから、基礎体温の高温相がさらに高めの値へと上昇していく人もいるが、こうした現象が見られるかどうかは個人差であり、基礎体温による妊娠の推定はあくまで高温期の﹁高さ﹂ではなく﹁長さ﹂で行うものである。 妊娠確定後 妊娠初期における基礎体温の異常な低下は、流産の兆候等の察知に役立つ場合もある。もっとも、日々の変動で低めの値を示す時もあったり、個人差で安定期よりかなり早めに基礎体温の低下が始まる人もいたりするので、必ずしも基礎体温が下がったからといって危険な状態を意味するとは限らない。 妊娠中期 胎盤が完成して安定期に入る頃になると、通常、徐々にまた基礎体温は下がってきている。以後、出産後の︵有排卵︶月経が再開するまでは、一相性のようなはっきりしない推移が続く。基礎体温の異常と不妊・月経異常[編集]
基礎体温は、ホルモン分泌の乱れを原因とする生理不順・不妊・機能性不正出血などの原因推定に役立つ場合がある。
無排卵月経
無排卵に陥ると、無月経や稀発月経になったりするほか、短い周期で頻発月経を繰り返したり、これらの周期をランダムに繰り返したりする場合がある。また、ホルモンサイクルの区切りがはっきりしないため、少量の月経がなかなか終わらなかったり、長期間だらだら続く不正出血を起こすこともある。ただし、無排卵でも一見 順調な月経であるかのように定期的な出血が訪れるケースもあり、基礎体温を測ってみて初めて無排卵だったと判明する人もいる。
●高温期がなく低温期のみの、平坦な一相性のグラフ
●ギザギザが大きく、連続した明確な高温相は読み取れないグラフ
黄体機能不全
低温期の日数は月経周期の長さによって個人差があるが、高温期すなわち排卵~次の月経までの日数は正常なら誰でもほぼ正確に14日(±2日)で、高温期がしっかり持続していないのは黄体ホルモンの分泌が不十分な表れであり、頻発月経や着床困難による不妊の原因になったりする可能性がある。
●高温期が短い︵10日未満︶
●高温期の途中でガクンと下がってしまう谷間がある
●高温期の上がり始めが鈍く日数がかかったり、月経のだいぶ前から下がり始めたりする
●高温期と低温期の差が小さい︵0.3℃未満︶
持続黄体依存症
非妊娠時に何故か通常より黄体の寿命が伸び、なかなか月経が始まらない現象。今のところ、原因等の詳細は不明。
●妊娠していないのに、高温期が長く続いている︵18日以上︶
黄体化未破裂卵胞︵LUF︶
黄体化非破裂卵胞、黄体化無排卵卵胞症候群︵LUFS︶とも。通常、基礎体温で高温期に移行すれば排卵が行われたと判断できるが、ときに無排卵のまま不完全に黄体化した卵胞から黄体ホルモンが分泌され、あたかも排卵済みのような様相を呈することがある。実際には排卵されていないので当然ながら妊娠は期待できず、このような状態の見極めは、産婦人科でのエコー画像による診断を要する。正常な排卵後に比べると黄体化が弱めで、基礎体温に黄体機能不全と同様の特徴が見られる場合もしばしばある。