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この項目では、小説について説明しています。心理学用語については「心理検査」をご覧ください。 |
﹃心理試験﹄︵しんりしけん︶は、1925年︵大正14年︶に発表された江戸川乱歩の短編探偵小説。明智小五郎シリーズの2作目。博文館の探偵小説雑誌﹃新青年﹄の1925年2月号に掲載され、﹃D坂の殺人事件﹄に始まる6ヶ月連続短編掲載の2作目にあたる。犯人の視点で事件が語られる倒叙の形式をとる[2]。
英訳版の題名は﹃The Psychological Test﹄。
作者の江戸川乱歩は心理学に興味を持ち、単語への反応を検査するミュンスターベルヒの心理試験についての著作を読み、探偵小説に仕立てることを考えた[3]。
﹃新青年﹄では森下雨村の企画で、前月1月号の﹃D坂の殺人事件﹄に続き、この﹃心理試験﹄、﹃黒手組﹄、﹃赤い部屋﹄、﹃白昼夢﹄、﹃幽霊﹄と、半年間にわたり乱歩の短編を連続掲載しており、第二弾が本作である。また乱歩の発表作としては7作目に当たる[3]。
あらすじ[編集]
貧しい大学生・蕗屋清一郎は、親友である斎藤勇から、彼の下宿先の家主である老婆が大金を貯めていることを耳にした。老い先短い老婆より、まだ若くて未来のある自分がその大金を使った方がずっと効果的だ、と考えた蕗屋は、老婆を殺して金を奪う計画を立てる。
蕗屋は自分が絶対に疑われないように綿密に計画を立て、それを実行に移す。その後、老婆殺害の廉で斎藤が勾引された。心理テストを使うことで有名な笠森判事がその事件の担当者になったと知ると、蕗屋はそのための練習を重ねるなど対策を練った。そして、その練習は功を奏し、蕗屋は完璧に心理テストをこなした。だが、名探偵・明智小五郎はその余りにも完璧すぎる結果に疑いの目を向ける。
明智は探偵の身分を隠して蕗屋と会話する中で、蕗屋を罠にかけ自白へと追い詰める。
登場人物[編集]
蕗屋 清一郎︵ふきや せいいちろう︶
本作の主人公的存在の大学生。苦学生で、学費を稼ぐためつまらない内職等に時間を取られ、勉強や読書の時間が十分に確保できない自分の境遇に不満を持っている。
斎藤 勇︵さいとう いさむ︶
蕗屋の同級生。蕗屋に老婆が金を持っていると漏らしてしまった。天性の小心者。余計な発言や行動が自分自身を追い詰めていく。
老婆︵ろうば︶
本名不明。金をしこたま貯めていると評判。蕗屋に殺される。
笠森判事︵かさもり︶
予審判事。まだ若いが、心理学をかじっており、評判は良い。
明智 小五郎︵あけち こごろう︶
素人探偵。世間に名を知られはじめていた。
トリック[編集]
鍵となるトリックはフョードル・ドストエフスキーの﹃罪と罰﹄を下敷きにしている[3]。﹃罪と罰﹄ではラスコーリニコフが犯行後に空き部屋に隠れ、そこでペンキを見たことを覚えていた。予審判事は空き部屋とペンキ塗りについて尋ねることでラスコーリニコフにかまをかける[3]。
本作ではペンキを塗られた壁が屏風に、ペンキが屏風の傷に置き換えられている[3]。作中で明智は老婆の部屋にあった屏風の傷について蕗屋に尋ね、蕗屋は最後に老婆を訪問した事件2日前の時点で屏風は見たが傷はなかったと証言する。明智は屏風が昔からそこにおかれていたかように思わせる言い方をしたが、実際は事件前日に届いたものだった。このことを明智が明かすと、蕗屋は説明に窮し犯行を認めざるをえなくなる。
評価・影響[編集]
乱歩によれば、﹃新青年﹄における6ヶ月連続短編掲載において発表直後から評価が高く、これをきっかけとして作家専業になる決心をしたという[3]︵ただし、後には﹃赤い部屋﹄の方が好評であったともいう︶。松本清張は本作を読んで夢中になったと述べている[4]。
乱歩は、連続短編掲載において﹃D坂の殺人事件﹄﹃心理試験﹄﹃黒手組﹄の3作までは本格ものと見なしていたが[3]、山前譲は明智の追い詰め方が心理的であり厳密ではないことを指摘し、この作品は本格ものとは呼べないと指摘している[2]。