出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サヴァーン級救命艇(イングランド、ドーセットのプールハーバー)。イギリスで最大の救命艇(全長17m)
救 難 艇 ︵ き ゅ う な ん て い 、 英 : l i f e b o a t ま た は R e s c u e b o a t ︶ と は 、 海 上 で 遭 難 し た 人 を 救 助 す る た め に 作 ら れ た 船 の こ と で あ る 。 遭 難 現 場 に 迅 速 に 到 達 で き る よ う に 設 計 さ れ 、 海 岸 の 基 地 に 待 機 す る 。 イ ギ リ ス な ど で は ボ ラ ン テ ィ ア に よ っ て 運 用 さ れ る 。 膨 張 式 の 船 体 を 持 つ タ イ プ も あ る 。
救 命 艇 ︵ き ゅ う め い て い ︶ と も い う が 、 そ の 場 合 は 救 命 ボ ー ト を 意 味 す る 場 合 が あ る 。 本 項 で は l i f e b o a t ︵ 遭 難 側 が 搭 乗 す る も の ︶ の 訳 語 と し て 救 命 艇 、 R e s c u e b o a t ︵ 救 難 活 動 を す る 側 が 搭 乗 、 派 遣 す る も の ︶ の 訳 語 と し て 救 難 艇 を 用 い る 。
オール式の救命艇
イギリス、ブリストル港の小型救命艇
イ ギ リ ス の 最 初 の 救 命 艇 基 地 は 1 7 7 6 年 、 フ ォ ー ン ビ ー の 海 岸 に リ ヴ ァ プ ー ル 市 会 議 員 で あ っ た ド ッ ク 長 ウ ィ リ ア ム ・ ハ ッ チ ン ソ ン に よ っ て 設 立 さ れ た [ 1 ] . 。
最 初 の 救 命 艇 は イ ギ リ ス の ラ イ オ ネ ル ・ ル ー キ ン の 製 作 で あ る 。 ル ー キ ン は 1 7 8 4 年 、 20 フ ィ ー ト の ノ ル ウ ェ ー の ヨ ー ル を 改 造 し 、 浮 力 を 増 す た め に 防 水 コ ル ク で 船 室 を 満 た し 、 復 原 性 を 高 め る た め に 鋳 鉄 製 の 竜 骨 を 装 着 し た 。
こ れ ら の 救 命 艇 に は 6 人 な い し 10 人 の 志 願 者 が 乗 り 組 ん で い た 。 彼 ら は 王 立 救 命 艇 協 会 ︵ イ ギ リ ス : R o y a l N a t i o n a l L i f e b o a t I n s t i t u t i o n ︵ R N L I ︶ 、 1 8 2 4 年 設 立 ︶ や 合 衆 国 救 命 局 ︵ ア メ リ カ : U n i t e d S t a t e s L i f e S a v i n g S e r v i c e ︵ U S L S S ︶ 、 1 8 7 8 年 設 立 ︶ な ど の 組 織 に 属 し て お り 、 船 が 遭 難 し た と き に は 海 へ 漕 ぎ 出 し 、 船 上 の 不 運 な 命 を 救 う た め に 彼 ら の 命 を 賭 け た 。 イ ギ リ ス の 場 合 、 彼 ら は 一 般 に 地 元 の 船 乗 り で あ っ た 。
専 門 に 作 ら れ た 最 初 の 救 命 艇 は ヘ ン リ ー ・ グ レ ー ト ヘ ッ ド の 建 造 に よ る も の で 、 1 7 9 0 年 1 月 29 日 に イ ン グ ラ ン ド の タ イ ン 川 で テ ス ト さ れ た 。 最 初 の 救 命 艇 の 発 明 者 と し て は ウ ィ リ ア ム ・ ウ ッ ダ ブ と ラ イ オ ネ ル ・ ル ー キ ン も 名 乗 り を 上 げ て い る 。 初 期 の 救 命 艇 の 1 例 と し て は 、 リ チ ャ ー ド ・ ホ ー ル ・ ガ ウ ア ー に よ っ て 設 計 さ れ た 1 8 2 1 年 の ラ ン ド ガ ー ド ・ フ ォ ー ト 救 命 艇 が 上 げ ら れ る 。
イ ギ リ ス の 救 命 艇 は 帆 と オ ー ル を 備 え て い た 。 ま た 回 頭 す る 必 要 が な い よ う に 、 船 の ど ち ら の 端 で も 舵 の 操 作 が 可 能 な 構 造 に な っ て い た 。
1 8 9 9 年 、 マ ル ケ ッ ト 救 命 基 地 の 要 請 に よ り 、 レ イ ク ・ シ ョ ア ・ エ ン ジ ン 会 社 に よ っ て 、 ス ペ リ オ ル 湖 ︵ ア メ リ カ 、 ミ シ ガ ン 州 ︶ の 34 フ ィ ー ト 救 命 艇 に 2 気 筒 12 馬 力 の 内 燃 エ ン ジ ン が 取 り 付 け ら れ た 。 こ の 初 め て の モ ー タ ー 救 命 艇 ︵ M o t o r L i f e B o a t 、 M L B ︶ は 成 功 し 、 救 命 艇 基 地 は 次 々 に そ の 保 有 す る 救 命 艇 に エ ン ジ ン を 取 り 付 け て い っ た 。
1 9 0 9 年 に は 、 ア メ リ カ の エ ン ジ ン 付 き 救 命 艇 の 数 は 44 隻 と な り 、 出 力 も 40 馬 力 ま で 増 加 し て い た 。 1 9 1 5 年 、 U S L S S と 税 関 監 視 艇 局 ︵ e n : R e v e n u e C u t t e r S e r v i c e ︶ が 合 体 し て ア メ リ カ 沿 岸 警 備 隊 と な っ た 。 当 初 の 保 有 M L B は 36 隻 だ っ た 。
最 近 で は 沿 岸 の 救 難 に 最 適 な も の と し て 、 風 や 波 に よ っ て 転 覆 す る 危 険 の 少 な い 、 固 定 式 の 船 殻 を 持 つ 膨 張 式 ボ ー ト ︵ e n : R i g i d H u l l e d I n f l a t a b l e B o a t 、 R I B ︶ が 使 用 さ れ る 。 特 別 に 設 計 さ れ た ジ ェ ッ ト 救 難 艇 も ま た 有 効 に 使 わ れ て い る 。 普 通 の プ レ ジ ャ ー ボ ー ト 等 と 異 な り 、 こ れ ら の 小 型 な い し 中 型 の 救 難 艇 は 、 遭 難 者 を 吊 り 上 げ る こ と な く 船 内 に 収 容 で き る よ う 、 一 般 に き わ め て 低 い 乾 舷 を 持 つ 。 通 常 の 船 と は 異 な り 、 浮 力 タ ン ク に よ り 浮 力 を 得 る よ う 設 計 さ れ て い る こ と か ら 、 船 体 内 に 水 が 入 っ て も 行 動 可 能 で あ る 。 ︵ 通 常 の 船 は 船 体 が 水 を 押 し の け る こ と に よ り 浮 力 を 得 て い る ︵ ア ル キ メ デ ス の 原 理 参 照 ︶ ︶
フランス、ベル・イル島の救命艇
現 代 の モ ー タ ー 救 命 艇 ︵ M L B ︶ は 、 最 初 の 追 加 改 造 さ れ た エ ン ジ ン よ り 大 き な パ ワ ー を 持 ち 、 波 の う ね り を 乗 り 切 る こ と が で き る よ う に な っ て い る 。 そ し て い か な る 悪 天 候 で も 海 に 出 る こ と が で き 、 遠 い 沖 合 い で 救 難 活 動 を 行 う こ と が で き る 。 昔 の 救 命 艇 は 帆 と オ ー ル に 頼 っ て い て 、 遅 く 、 ま た 風 の 状 態 や 人 力 に 依 存 し て い た 。 現 在 は こ の 両 方 の タ イ プ が 使 わ れ て い る 。 こ の タ イ プ の 救 命 艇 は す べ て 標 準 的 に 遭 難 者 を 見 つ け る た め の 国 際 V H F や レ ー ダ ー な ど の 最 新 の 電 子 装 置 を 備 え 、 生 存 者 の た め に 医 薬 品 と 食 料 を 携 え て い る 。
最 初 の M L B は 1 8 9 9 年 に 合 衆 国 救 命 局 ︵ U S L S S ︶ で 作 ら れ 、 そ の 船 体 デ ザ イ ン は 1 9 8 7 年 の モ デ ル ま で 受 け 継 が れ た 。 U S L S S は 後 に ア メ リ カ 沿 岸 警 備 隊 と な っ て 、 発 足 時 の 救 命 業 務 を 継 続 し て い る 。
救 命 艇 は 内 陸 で 運 用 さ れ る 場 合 も あ る 。 王 立 英 国 救 命 協 会 ︵ 仮 訳 ︶ ︵ e n : R o y a l L i f e S a v i n g S o c i e t y U K 、 R L S S U K ︶ な ど の 組 織 は 、 河 川 や 湖 と い っ た 領 域 も 行 動 範 囲 と し て い る 。
イングランドのサウスポート救命艇基地
王立救命艇協会 はイギリスおよびアイルランドの周囲の沿岸地域に救命艇を配置しているが、人員は無償の、多くはパートタイムのボランティアに頼っており、またその機材も自発的な寄付に拠るものである[2] 。それぞれの基地では内海用および外海用(全天候)救命艇を運用している。協会の各地区の支部は定期的に訓練を行い、救命艇と格納庫を保守し、商業海洋無線を受信しつつ、救難が必要となるときに備えている。
アメリカ合衆国の水域では海難救助はアメリカ沿岸警備隊 (USCG)の任務の一部となっており、USCGはそのための多目的船舶や航空機を備えている。嵐などの海上の悪条件に耐えられるように作られたMLBは、沿岸警備隊の保有船艇の主要な部分を占める。自動排水、自動復原機能を持ち、実質的に不沈であるMLBは悪天候での水上救難に用いられる。
MLBの乗組員は、最初の合衆国救命局(USLSS)の志願者たちの伝統を踏まえてサーフメン(surfmen)と呼ばれる。
オーストララシア (オーストラリア、ニュージーランドを含む南太平洋地域)では、サーフ・ライフセービング の団体が、遊泳者とサーファーの沿岸海域での救助のために、膨張式救難ボート(inflatable rescue boats、IRB)を運用している。このボートはゾディアック 社製の高性能ラバーボートで、船外機で駆動する。救難要員はウェットスーツを着用する。
オランダ救命艇協会(KNRM)はジェットRIB救命艇を開発して、大きな効果を上げた。これには3つのクラスがあり、最も大きなアリー・ビサール(Arie Visser)級は全長18.80 m、1,000馬力のジェット2基で最大35ノットの速力を発揮する。収容人員は120人である。
ドイツの捜索救難艇ヘルマン・マルヴェーデ
ド イ ツ で は 1 8 6 5 年 以 降 、 ド イ ツ 海 難 救 助 協 会 ︵ 仮 訳 ︶ ︵ D e u t s c h e G e s e l l s c h a f t z u r R e t t u n g S c h i f f b r ü c h i g e r 、 D G z R S ︶ が 海 難 救 助 業 務 を 担 当 し て い る 。 D G z R S は 民 間 ・ 非 営 利 の 組 織 で 、 多 種 多 様 な 船 艇 を 所 有 し て い る 。 最 も 大 き い 船 は 4 5 m の SK ヘ ル マ ン ・ マ ル ヴ ェ ー デ で あ る 。 D G z R S は 北 海 と バ ル ト 海 に 54 の 基 地 を 持 ち 、 20 隻 の 救 難 ク ル ー ザ ー ︵ 小 さ い 救 難 艇 を ピ ギ ー バ ッ ク 方 式 で 搭 載 す る ︶ と 41 隻 の 救 難 艇 を 運 用 し て い る 。
スカンディナヴィア 諸国のほとんどにもイギリスと同様なボランティアによる救命協会が存在する。
日本では海難救助は海上保安庁 が担当しており、巡視船 ・巡視艇 が救難任務に当たる。一般の巡視船艇では対応できない特殊海難に備えて各管区には1隻ずつ救難強化巡視船 が配置されている。また、消防機関 の消防艇 や救助艇も水難救助 の任務に当たっている
^ Yorke, Barbara & Reginald. Britain's First Lifeboat Station, Formby, 1776 - 1918. Alt Press. ISBN 0-9508155-0-0 also see Liverpool's National Maritime Museum Exhibition and Archives
^ www.rnli.org.uk 王立救命艇協会
書籍
John A Culver; The 36 foot Coast Guard motor life boat (1989 J.A. Culver)
Bernard C. Webber; Chatham, "The Lifeboatmen" (1985 Lower Cape Pub., ISBN 0-936972-08-4 )
Robert R. Frump, "Two Tankers Down: The Greatest Small Boat Rescue in U.S. Coast Guard History. (2008, Lyons Press. www.twotankersdown.com)
ウィキメディア・コモンズには、
救難艇 に関連するカテゴリがあります。