耽美主義
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(耽美派から転送)
耽美主義︵たんびしゅぎ、英: aestheticism︶は、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。これを是とする風潮は19世紀後半、フランス・イギリスを中心に起こり、生活を芸術化して官能の享楽を求めた。1860年頃に始まり、作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にあるとする立場である。唯美主義、審美主義とも。
孔雀の間。建築主の所有する染付の磁器コレクションとホイッスラーの ﹁陶磁の国の姫君﹂を飾るよう設計されたがホイッスラーが勝手に部屋全体を紺と金に塗り替え、孔雀を描き足した[2]
さまざまな様式が混交しているが、古典主義や日本美術の影響が大きく、1870年から1900年にかけて流行した[2]。特徴的なモチーフとしては、孔雀の羽、ひまわり、青と白のセラミック︵染付︶、強い色彩などがある[2]。代表的な人物としては、ジェームズ・マクニール・ホイッスラー︵1880年代半ばに耽美派運動から離反︶、ビアズリー、オスカー・ワイルドなど[2]。室内装飾としては、船舶王の邸宅の食堂だった孔雀の間︵1877年作、現フリーア美術館所蔵︶、ハーボーンにあった邸宅ザ・グローブのパネルの部屋︵1878年作、現ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵︶などがある[2][3]。耽美派の室内装飾には、日本の版画や衝立、扇などがよく使われた[2]。
概略[編集]
ルース・アプ・ロバーツは、トーマス・カーライルの耽美への先駆的貢献を認めて、1825年から1827年のイギリスの美の使徒と呼んだ。[1]アルジャーノン・スウィンバーンがある絵画を評して曰く﹁この絵の意味は美そのものだ。存在することだけが、この絵の存在理由(Raison d'être ) なのだ﹂という表現が耽美主義の本質を説明している。耽美主義者の中ではオスカー・ワイルドなどが代表的である。19世紀の末に近づくにつれ、デカダンスの様相を呈した反社会的な動きとなっていった。これは、当時ヨーロッパを席巻していた楽観的な進歩主義へのアンチテーゼでもあった。 その反社会的傾向から悪魔主義などと括られることもあるが、耽美主義自体は悪魔主義や退廃芸術とは必ずしも一致しない。むしろ感性の復興という意味ではルネサンスとも通底している。その一方で神秘主義とも相通じるものもある。フランス人作家ペラダン は﹁美が生み出すのは感情を観念に昇華させる歓びである﹂と語っている。同性愛やサディズム、マゾヒズム、エロチシズムなども、耽美主義の作風に含まれることが、しばしば見受けられる。 耽美主義の流れは日本の知識人や文化人、芸術家にも影響を与えた。谷崎潤一郎は、著名な日本の耽美主義の小説家である。また、泉鏡花や江戸川乱歩も同様に耽美主義の作家である。また、三島由紀夫も耽美派に含まれる場合がある。スタイル[編集]
耽美派[編集]
耽美主義を奉ずる文芸上・芸術上の一派。唯美派。文芸[編集]
●エドガー・アラン・ポー︵アメリカ、始祖的存在︶ ●オスカー・ワイルド (アイルランド出身、代表作﹃サロメ﹄) ●シャルル・ボードレール ●テオフィル・ゴーティエ ●ピエール・ルイス ●ピエール・ロティ (フランス、2度来日。作品﹃お菊さん﹄、﹃秋の日本﹄) ●ウォルター・ペイター︵ワイルドの師︶ ●ダンテ・ロセッティ ●マシュー・アーノルド (イギリスの耽美派詩人) ●ジョン・ラスキン︵ラファエル前派に影響を与えた︶ ●谷崎潤一郎 ●江戸川乱歩 ●夢野久作 ●沼正三 ●三島由紀夫 ●澁澤龍彦 ●中井英夫 ●上田敏 ●泉鏡花 ●永井荷風 ●吉井勇︵パンの会︶ ●木下杢太郎︵パンの会︶ ●石井柏亭︵パンの会︶ ●北原白秋 ●日夏耿之介︵作家論を著した︶絵画・美術[編集]
●オーブリー・ビアズリー ●ギュスターヴ・モロー ●オディロン・ルドン ●グスタフ・クリムト ●エゴン・シーレ ●ジェームズ・マクニール・ホイッスラー ●フェリシアン・ロップス ●月岡芳年 - 残酷絵 ●伊藤晴雨 - 責め絵 ●金子国義 ●村上芳正 ●建石修志映画[編集]
映画における耽美主義は、芸術における流派、あるいは芸術家自身の主張というよりは、むしろ﹁美のための美を追求する﹂という創作態度や、そこから生まれてくる芸術作品というべきものであるから、周囲がどう評価するかにかかわる場合が多い。次の映画作家の作品は、耽美主義的傾向が強いと指摘されることが多い。 ●ピーター・グリーナウェイ ( ﹁英国式庭園殺人事件﹂、﹁ピーター・グリーナウェイの枕草子﹂など) ●ルキノ・ヴィスコンティ ( ﹁山猫﹂、﹁異邦人﹂、﹁地獄に堕ちた勇者ども﹂、﹁ベニスに死す﹂、﹁ルートヴィヒ﹂、﹁イノセント﹂など) ●デレク・ジャーマン - LGBT運動の象徴にとして扱われた。 ●ヴェルナー・シュレーター ●ジャン・コクトー ●松本俊夫音楽[編集]
グラム・ロック、ゴシック・ロックやニューウェイブの一部に、耽美主義的傾向が濃厚に出ている。- デヴィッド・ボウイ
- ルー・リード, ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
- マーク・ボラン&Tレックス
- ザ・スミス
写真[編集]
ギャラリー[編集]
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オスカー・ワイルド
関連項目[編集]
- フランスのファッション
- ラファエル前派
- 象徴主義
- マリオ・プラーツ - 著名な研究者
Further Reading[編集]
発展学習用書籍
- 岡谷公二『ピエル・ロティの館 エグゾティスムという病い』作品社、2000。ISBN 9784878937576
脚注[編集]
- ^ ap Roberts, Ruth (1991). “Carlyle and the Aesthetic Movement”. Carlyle Annual (12): 57–64. ISSN 1050-3099. JSTOR 44945538 .
- ^ a b c d e f Style Guide: AestheticismVictoria and Albert Museum
- ^ Panelled room from The Grove in HarborneVictoria and Albert Museum