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靱猿︵うつぼざる︶は狂言の演目のひとつ。大名をシテとする ﹁大名狂言﹂の中でもとくに有名なものである。靫猿。
﹁猿(靭猿の猿役)に始まり狐(釣狐の狐役)に終わる﹂とも言われ、狂言師をめざす子弟が︵猿の役で︶幼少時初めて舞台に立つ演目としても知られている。
登場人物[編集]
●シテ︵主役︶: 大名
●アド: 太郎冠者
●小アド: 猿引
●子方: 猿
あらすじ[編集]
猿引の連れている見事な猿を見た大名は、自分の靱︵うつぼ︶に用いたいからその猿の皮をよこせと言う。
猿引が断ると、ならば猿もろともお前も殺してやるとすごむ。
泣く泣く猿を殺すために猿引が杖を振り上げると、猿は芸の合図かと思い、一生懸命に﹁舟の艪を漕ぐ﹂仕草をする。
不憫でならないと泣き崩れる猿引。それを見た大名は己が非を悟り、猿を殺さぬよう命じる。
猿引は大名への礼として、猿に踊りを演じさせる。それを見て喜んだ大名は、自分も一緒に踊りだす。
台詞の例[編集]
大名 ﹁八幡大名。冠者ゐるか﹂
冠者 ﹁これにつめてござる﹂
大名 ﹁今日は遊山に出う。供をせい﹂
冠者 ﹁よい日和にて面白いな﹂
猿引 ﹁これはこの辺に住む猿引でござる。町へ猿を引いて出まっせう﹂
大名 ﹁冠者、よい猿の﹂
冠者 ﹁見事な猿を引いてまゐる﹂
大名 ﹁やいやい、その猿はどこへつれてゆくぞ﹂
猿引 ﹁某は猿引でござる。町へ猿まはしに参りまする﹂
大名 ﹁猿引ぢゃ。冠者、この靱にかけう。これこれ猿引、無心言ひたいが聴かうか﹂
猿引 ﹁何なりとも承りませう﹂
大名 ﹁過分におぢゃる。お礼申さう﹂
猿引 ﹁迷惑な[* 1]﹂
大名 ﹁その猿の皮を貸せ。この靱にかけう﹂
猿引 ﹁ざれごと御意なされまする﹂
大名 ﹁いやいや、真実ぢゃ﹂
猿引 ﹁生きてゐる猿の皮がからるるものでござるか。冠者殿頼みまする﹂
大名 ﹁四五年過ぎて返さう﹂
猿引 ﹁猿引づれと思うて、我侭をおしゃる。ならぬ﹂
大名 ﹁やいやい、名字をもくびにかけた者が、礼まで言うた。貸さずは、猿もおのれも射殺︵いころ︶してやらう﹂
猿引 ﹁まづ冠者殿。とりさへて下され。猿を進上致しませいでは﹂
大名 ﹁はやう皮をおこせい﹂
猿引 ﹁私が打って、皮に傷のないやうにして、進上仕らう﹂
大名 ﹁早うゝゝ﹂
猿引 ﹁猿よ、よう聞け。ちひさい時から飼うて、今殺すは迷惑なれども、あのお大名の、皮をかると御意ぢゃ。今殺す。それがし恨みな[* 2]。えい﹂
大名 ﹁皮はおこさずに、なぜ泣くぞ﹂
猿引 ﹁冠者殿、死ぬる事は知らいで、艪︵ろ︶を押すまねかと思うて、艪を押しまする。畜生でも不憫や﹂
大名 ﹁合点した。泣くが道理。許す、殺すなと言へ﹂
冠者 ﹁ゆるさしらるる﹂
猿引 ﹁忝︵かたじけな︶うござる。猿、お大名様へ御礼々々。冠者殿へもお礼﹂
大名 ﹁冠者にまで礼をした﹂
猿引 ﹁死をたすけ下されましたお礼に、猿をまはしませう﹂
大名 ﹁まはせゝゝゝ﹂
冠者 ﹁まはさしめ﹂
猿引 ﹁畏︵かしこ︶まった﹂
ふし ﹁猿は山王[* 3]真猿めでたい。まつきおろしの春の駒か、鼻をつるべて参りたるぞや。白銀黄金御知行まさる。めでたきままよ、飛騨︵ひんだ︶のをどりはひとをどり﹂
﹁こなたのお庭をけさ見れば、黄金の枡で米をはかる。三日月なりの鎌ほしや。妻もろともに草を苅らう。舟の中には何とおよるぞ。苫を敷寝に、楫を枕に﹂
︵歌の間に刀、上下、扇をみな猿引にやる︶
﹁一のへいだて、二のへいだて、三の黒駒、しなのをどり。俵を重ねてめんめん[* 4]に、たのしくなるこそめでたき﹂
- ^ 恐縮です。
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私を恨むなよ。
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山王信仰による日吉系の神社では、猿は神の使いとされている。
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米を意味する 「めめ」と「面々」とを掛けている。