与謝野晶子詩歌集

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野茨のばらをりて髪にもかざし手にもとり永き日野辺に君まちわびぬ 
 
春を説くなその朝かぜにほころびし袂だく子に君こころなき 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
薔薇よ、如何なれば 
休むひま無く香るや。 
花は、微風そよかぜに托して 
之に答へぬ。 
「我は自らを愛す、 
されば思ふ、 
妙香の中に生きんと。 
たとひ香ることは 
身一つに過ぎずとも、 
世界は先づ 
我よりぞ浄まる。」 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
薔薇の花打つ、あな憎し、 
煤色の雨、砂の風。 
薔薇は青みぬ、うつ伏しぬ、 
砕けて白く散るもあり。 
 
之を見るとき、花よりも 
さいなまるるは我が心。 
堪へ難ければ、傘とりて、 
花の上にぞさしかざす。