与謝野晶子詩歌集

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河ぞひのかど小雨ふる柳はら二人ふたり一人ひとりめす馬しろき 
 
歌は斯くよ血ぞゆらぎしと語る友に笑まひを見せしさびしき思 
 
 
 
 
 
 
 
 
  母と児 
 
書き捨てた反古を捻つて、 
幾つも幾つも作る、 
よりの犬。 
「母あさんは今日、 
玩具おもちやを買ひに出る暇が無いの、 
是で我慢をなさいな。」 
 
ひよろ、ひよろとした小犬が 
幾つも机の上に並ぶのを見て、 
四歳の児の目は円くなる。 
「母あさん、此犬を啼かして頂戴、 
啼かなけりや、母あさんは 
犬を作るのが下手ですよ。」 
 
 
 
 
 
 
 
  郊外 
 
路は花園に入り、 
カンナの黄な花が 
両側に立つてゐる。 
藁屋根の、矮い、 
煤けた一軒の百姓家が 
私を迎へる。 
その入口の前に 
石で囲んだ古井戸。 
一人の若い男が鍬を洗つてゐる。 
私のパラソルを見て、 
五六羽の鶏が 
向日葵の蔭へ馳けて行く。 
黄楊の木の生垣の向うで 
田へ落ちる水が、 
ちよろ、ちよろと鳴つてゐる。 
唯だ、あれが見えねば好からう、 
青いペンキ塗の 
活動写真撮影場。