与謝野晶子詩歌集

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くれなゐの襟にはさめる舞扇まひあふぎ酔のすさびのあととめられな 
 
桃われの前髪ゆへるくみ紐やときいろなるがことたらぬかな 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
障害物を越ゆる 
騎馬の人の写真より、 
我目は青磁の皿なる 
レモンの黄に移り行き、 
ふと、次のの 
鳩の時計の呼ぶに、 
やがて心は 
碓氷の峰のいただき 
冬枯の落葉松からまつに眺め入り、 
浅間より浮び来る 
白き雲に乗りつつ、 
高く高く遊ぶ。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
飛べ、けはしきを、風の空、 
吹け、はげしきを、火の喇叭らつぱ、 
摘め、かをれるを、赤い薔薇、 
漕げ、逆巻さかまくを、千波万波、 
君が愛、音楽、詩の力。