与謝野晶子詩歌集

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浅黄地に扇ながしの都染みやこぞめ九尺のしごき袖よりも長き 
 
四条ばしおしろいあつき舞姫のぬかささやかに撲つ夕あられ 
 
 
 
 
 
 
 
  小鳥の巣 
 
見上げたる高き木間このまに 
胸ひかる小鳥のつがひ、 
もろともにくはへて帰る 
一すぢの細き藁屑、 
 
まめやかに、いぢらしきかな、 
日のあたる南に向きて、 
こもりたる青葉の蔭に、 
巣を作る頬白ほほじろのわざ。 
 
春の日は若きと 
花の木に枝うつりして、 
霜と雨、風をも凌ぎ、 
歌ひけん、岡より岡へ。 
 
初夏の小鳥のこころ 
今は唯だ生むを楽み、 
雛のため、高き木間に 
巣を作る頬白のわざ。