与謝野晶子詩歌集

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紅梅に金糸のぬひの菊づくし五枚かさねし襟なつかしき 
 
舞ぎぬの袂に声をおほひけりここのみ闇の春の廻廊わたどの 
 
 
少女子をとめごの花 
  (卒業生を送る歌) 
 
 
 
教へ子のわが少女をとめたち、 
この花をいざ受けたまへ。 
君たちのめでたき門出、 
よき此日、うれしき此日、 
 
そのはじめ皆をさなくて 
ほの紅き蕾と見しも、 
いつしかとわが少女たち 
この花にいとこそ似たれ。 
 
似たまふは姿のみかは、 
うるはしく匂へる色は 
やがて其の豊かに開く 
新しきみこころの花。 
 
教へ子のわが少女たち、 
この花をいざ受けたまへ。 
この花にそのみづからの 
幸ひを眺めたまへよ。 
 
いとよくも修めたまひき。 
つつましく優しきなさけ。 
明るくも敏きその智慧 
創造のたへなる力。 
 
君たちの行手の道は 
ほがらかに春の日照らん。 
荒き風よしや吹くとも、 
少女子の花はとこしへ。 
 
かく云へど、永き年月としつき 
相馴れし親のこころに、 
別れをば惜む涙の 
つと流る、如何にとどめん。 
 
いざさらば我が少女たち、 
この花のごとくにいませ 
若やかに光りていませ 
この花をいざ受けたまへ。