与謝野晶子詩歌集

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きけな神恋はすみれの紫にゆふべの春の讃嘆さんたんのこゑ 
 
病みませるうなじにほそきかひな捲きて熱にかわける御口みくちを吸はむ 
 
 
みぞれ降る日に開け放ち、 
黒き小机、 
生けたるは茶の花ひと。 
あるじなほ縁に立ち、 
鋏刀はさみあり、円座の上。 
   × 
もとをただせば痩我慢、 
それを通したかたくな[#「かたくな」に傍点]が 
仮に堅めた今日けふさが。 
沙の塔ぞと人云はん、 
押せばくづるるわたしの。 
   × 
ボタンを押せばベルが鳴り、 
取次を経て座に通る、 
なんとかずかず手間が要る。 
わたしの客はわたしなり、 
逢ひたい時に側にゐる。