星の世のむくのしらぎぬかばかりに染めしは誰のとがとおぼすぞ
わかき子のこがれよりしは鑿のにほひ
清し高しさはいへさびし
蜜柑の木
朝の光が外にゐて、
さて鎧戸と、窓掛と、
その内側の白い蚊帳、
かうした中に生えてゐる、
蜜柑の若木五六本。
それが私に見えるのだ。
いまだ開かぬ瞼ごし、
まぼろしでなく夢でなく、
昨日の朝も今朝も見る。
はなたちばなが咲くでなし、
蜜柑の木より榊とも、
かなつたやうな若い木で、
穂すすきめいた弓なりの、
四尺ばかりの五六本。
初めの朝に蜜柑だと、
決めて眺めた緑の木。
熊野の浦の浜畑の、
白い沙地と見えるのは、
まさしく蚊帳の麻の目よ。
私はこれを楽しんで、
見てゐながらも思ひます。
かうした蚊帳の中にある、
蜜柑畑のほの白い、
朝が私にあることを。
すすき
穂の薄をば手に提げて、
盆の仏の帰る絵を、
身の毛のよだつ思ひして、
見たは幼い日のわたし。
そのすすきより細い手も、
それより白い骨もまた、
恐しい気のせずなりて、
十三日の待たるるよ。
巴里の街の下に見し、
カタコンブなる
人骨などはよそのこと、
あの絵に描いた白い人。
二十六日
霜月の末の落日、
常磐木の
その
中目黒、
広縁に畳敷かれて、
古柱、紫檀めきたり。
この入日、平家の船を
西海に照らせる如く、
我れを射て、いといと赤し
心をば云ふにあらねど、
風なくて肩の寒かり、
君逝きし二十六日。