けがをしたおおかぜくん 村山籌子

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けが を した おおかぜくん

村山籌子

 きょうは おおかぜくんは たいへん いいごきげんでした。
「ヒュウ ヒュウ ヒュウ」
 これが おおかぜくんの うたです。
「ヒュウ ヒュウ ヒュウ。なにかいたずらを してやろう。」
 おおかぜくんは とんでいって、こどもの ぼうしを ふきとばした。
 ピュウッ、コロ、コロ、コロ、コロ と ぼうしは とんでゆきました。
「ぼくのぼうしが とばされた。だれかつかまえて。」とこどもは おおごえで いいましたが、のはらのまんなかで、だれもいません。
「おもしろい、おもしろい。ヒュウ ヒュウ ヒュウ。」
 おおかぜくんは のはらをこえ、たんぼをこえて、やまのほうに ふいてゆきました。
 すると やまのふもとに ちいさな ちいさな ひつじのこが、くさをたべていました。
「やあ ちいさいやつだな。一つふきとばしてやれ。ヒュウ ヒュウ ヒュウ。」
 ひつじのこは ピュウッ、コロ、コロ、コロ、とふきとばされて、おおかぜくんが とおりすぎてしまうまで、どうしても おきあがることが できませんでした。
「おもしろい、おもしろい、ヒュウ ヒュウ ヒュウ。」
 おおかぜくんは やまをこえて、まちのほうへ ふいてゆきました。
「おもしろい、おもしろい。ぼくが ヒュウ と ふけば、なんでもかんでも ふきとばされてしまう。まちでも なんでも、すぐふきとばしてしまうぞ。ヒュウ ヒュウ ヒュウ。」
 まちのいりぐちに、おおきな いしのへいが たっていました。
「ヒュウ ヒュウ ヒュウ。おやおや、これは すこし つよそうだぞ。だが ぼくが ふけば すぐふきとばされて しまうさ。それ、ゆけ。ヒュウ ヒュウ ヒュウ。」
 おおかぜくんは うん と ちからをいれて ふきました。だが、いしのへい は びくともしません。
「ヒュウ ヒュウ ヒュウ。こいつは なまいきなやつだ。よし、こんどこそ ふきとばしてくれるぞ。」
 おおかぜくんは うまれてから まだ だしたことのないような、ちからを だして、ふきました。
 だが どうしたことでしょう。
 いしのへいは びくともしません。どこをかぜがふくか というかおをして へいきでたっています。
 おおかぜくんは すっかり はらをたてました。
 からだじゅうに ちからを いれて、あたまをさげて、ビュウッ とばかり、いしのへいに とっかんしました。
 ビュウッ、ビュウッ。
 おおかぜくんの あたまには おおきな こぶができ、はなも ひざも すりむけました。
 だが どうしたことでしょう。
 いしのへいは びくともしません。おおかぜくんは しりもちを ついたまま かんがえました。
「きょうは ぼくはすこし あたまが どうかしているらしい。もういたずらは やめよう。」
 そこで たちあがって あおいうみのほうへ かえってゆきました。
 なみのうえで ぐっすりねむって、あしたのあさ めがさめたときは、おおかぜくんは しずかな おとなしい はるかぜくんに なっていました。
 ソヨ ソヨ ソヨ ソヨ と うみのうえを あるきました。

 
 
 
 
 
底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「コドモノクニ」婦人之友社
   1939(昭和14)年4月
初出:「コドモノクニ」婦人之友社
   1939(昭和14)年4月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
編集:新字変換作業は、明かりの本で行いました。
2011年7月14日作成
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