木の祭り
新美南吉
木に白い美しい花がいっぱいさきました。木は自分のすがたがこんなに美しくなったので、うれしくてたまりません。けれどだれひとり、「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。木はめったに人のとおらない緑の野原のまんなかにぽつんと立っていたのであります。
やわらかな風が木のすぐそばをとおって流れていきました。その風に木の花のにおいがふんわりのっていきました。においは小川をわたって麦畑をこえて、
「おや」とじゃがいもの葉の上にとまっていた一ぴきのちょうが
「どこかで花がさいたのですね。」と、
それからつぎつぎと、じゃがいも畑にいたちょうちょうは風にのってきたこころよいにおいに気がついて、「おや」「おや」といったのでありました。
ちょうちょうは花のにおいがとてもすきでしたので、こんなによいにおいがしてくるのに、それをうっちゃっておくわけにはまいりません。そこでちょうちょうたちはみんなでそうだんをして、木のところへやっていくことにきめました。そして木のためにみんなで
そこではねにもようのあるいちばん大きなちょうちょうを先にして、白いのや黄色いのや、かれた木の葉みたいなのや、小さな小さなしじみみたいなのや、いろいろなちょうちょうがにおいの流れてくる方へひらひらと飛んでいきました。
ところが中でいちばん小さかったしじみちょうははねがあまりつよくなかったので、小川のふちで休まなければなりませんでした。しじみちょうが小川のふちの
「あなたはだあれ。」としじみちょうがききました。
「ほたるです。」とその虫は
「原っぱのまんなかの木さんのところでお
「でも、
「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるをつれていきました。
なんて楽しいお
「もっと遊んでいたい。だけどもうじきまっ
底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集第三巻」大日本図書
1980(昭和55)年7月31日初版第1刷発行
初出:「幼稚園と家庭 毎日のお話」育英書院
1936(昭和11)年11月15日
入力:めいこ
校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ
2003年9月29日作成
2012年5月8日修正
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