肖像 あいつはいつも歪んだ顔をして、 窓のそばに突つ立つてゐる、 白いさくらが咲く頃になると、 あいつはまた地面の底から、 むぐらもちのやうに這ひ出してくる、 ぢつと足音をぬすみながら、 あいつが窓にしのびこんだところで、 おれは早取写真にうつした。 ぼんやりした光線のかげで、 白つぽけた乾板をすかして見たら、 なにかの影のやうに薄く写つてゐた。 おれのくびから上だけが、 おいらん草のやうにふるへてゐた。