深夜の思ひ
これは泡立つカルシウムの 乾きゆく 急速な――頑ぜない女の児の泣声だ、 鞄屋の女房の夕(ゆふべ)の鼻汁だ。 林の黄昏(たそがれ)は 擦(かす)れた母親。 虫の飛交ふ梢のあたり、 舐子(おしやぶり)のお道化(どけ)た踊り。 波うつ毛の猟犬見えなく、 猟師は猫背を向ふに運ぶ。 森を控へた草地が 坂になる! 黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄する ヴェールを風に千々にされながら。 彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、 厳(いか)しき神の父なる海に! 崖の上の彼女の上に 精霊が怪しげなる条(すぢ)を描く。 彼女の思ひ出は悲しい書斎の取片附け 彼女は直きに死なねばならぬ。