山羊の歌 中原中也

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 臨終
 
 
 
 

秋空は鈍色にびいろにして
黒馬の瞳のひかり
  水れて落つる百合花
  あゝ こころうつろなるかな
 
神もなくしるべもなくて
窓近くをみなの逝きぬ
  白き空めしひてありて
  白き風冷たくありぬ
 
窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
  朝の日はこぼれてありぬ
  水の音したたりてゐぬ
 
町々はさやぎてありぬ
子等の声もつれてありぬ
  しかはあれ この魂はいかにとなるか?
  うすらぎて 空となるか?
 
 
 
 
       
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 底本:「中原中也詩集」岩波文庫、岩波書店
   1981(昭和56)年6月16日第1刷発行
   1997(平成9)年12月5日第37刷発行
底本の親本:「中原中也全集 第1巻 詩 ※()」角川書店
   1967(昭和42)年10月20日印刷発行
初出:「山羊の歌」文圃堂
   1934(昭和9)年12月10日
入力:浜野安紀子
1998年11月29日公開
2010年11月2日修正
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