アブセンス・オブ・マインド
西田幾多郎
多少のアブセンス・オブ・マインドというのは、誰にもあることである。あるのが普通といってよかろう。しかし私は可なり念入のアブセンス・オブ・マインドをやったことがある。今に思出しても、自分で
それは私がまだ金沢の四高に教師をしていた頃のことである。或日同僚のドイツ人ユンケル氏から晩餐に招かれた。金沢では外国人は多く公園から
昨年の秋、十数年ぶりに金沢へ帰って見た。小立野の高台から見はらす北国の青白い空には変りはないが、何十年昔のこととて、街は大分変っているように思われた。ユンケル氏はその後一高の方へ転任せられ、もう大分前に故人となられた。エスさんも、その後何処に行かれたか。その頃私より少し年上であったと思うが、今も何処かに健かにしておられるか知ら。(昭和十四年一月)
底本:「続思索と体験『続思索と体験』以後」岩波文庫、岩波書店
1980(昭和55)年10月16日第1刷発行
底本の親本:「西田幾多郎全集第十二巻」岩波書店
1950(昭和25)年
初出:「新風土」
1939(昭和14)年1月
入力:nns
校正:土屋隆
2006年3月20日作成
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