秋海棠
私はこれまでに秋海棠が日本に自生していると聞かされたことが一再ではなかった。が、しかし秋海棠は断じて我国には自生はない。それがあるように見えるのは、もと栽えてあったものから解放せられて自生の姿を呈しているので、そこで軽忽な人を瞞化しているにすぎない。そしてその自生姿を展開し繁殖している場所がいつも御寺の境内とかまたはその付近とかに限られている。例えば紀州の那智山とか房州の清澄山とかにそれがあるというのもまたこの類にすぎない。野州のある寺の付近の斜面崖地にもまた同じく自由に繁殖しているところがあった。
元来秋海棠は群を成して繁殖しやすい性質をもっている。すなわちそれは主としてその体上に生じている多くの肉芽からである。この肉芽は無論空中を飛ばないからその繁殖は大分限定せられている。花後の果実からも無数の軽い砕小種子が散出するから、この種子からもまた新苗の萌出することがある訳だが、私はまだ右種子からの仔苗を見ない。
秋海棠は中国名すなわち漢名である。これを音読したシュウカイドウが和名となっている。元禄十一年(1698)に出版された貝原
秋海棠は真に美麗な花が咲き何んとなく懐しい姿である。さればこそ
秋海棠はジャワならびに中国の原産であって Begonia Evansiana Andr. の学名を有し、またさらに Begonia discolor R. Br. ならびに Begonia grandis Dryand. の異名がある。