藤とフジ
世間一般に昔から藤をフジとしているが、しかし千年あまりも昔に出来た我国で一番古い辞書の『
本来藤はカズラ、すなわちツルのことであるから、今日花を賞するあのフジは藤の一字を用いたのではそのフジすなわち Wisteria(Wistaria)のフジにはならない。紫藤と書いて藤の上に紫の形容詞を加えてはじめてフジになるのだが、じつはこの紫藤は中国産であるシナフジ(Wistaria sinensis Sweet)の名で、今それを日本産のフジに適用することは出来ない。日本にはフジが二種あって、一つはノダフジ(Wistaria floribunda DC.)、一つはヤマフジ(Wistaria brachybotrys Sieb. et Zucc.)で、この二つの品の総称がフジである。そしてこの二種は日本の特産で中国にはないから、したがって中国の名すなわち漢名はない。ゆえに日本のフジを紫藤と書くのは間違っていることを承知していなければならない。