マクワウリの記
マクワウリは真桑瓜と書く。この真桑瓜は美濃本巣郡真桑村の名産で、昔からその名が高く、それでこの瓜をマクワウリと呼ぶようになって今日に及んでいる。またこの瓜は無論諸国につくられるので多少品変わりのものも出来て、中に谷川ウリ、ボンデンウリ(タマゴウリ)、田村ウリ、ヒメウリ、ネズミウリ、アミメマクワ(新称、瓜長楕円形緑色の皮に密に網目がある)などがある。またギンマクワウリすなわちギンマクワというものもあれば、またキンマクワウリと呼ぶものもある。
この時分すなわち徳川時代から明治初年へかけた頃における普通常品のマクワウリはここに掲げた図にあるように枕形をした楕円形のもので、長さ四寸ないし六、七寸内外、径三寸ばかりもあり、初めは緑色であるが熟すると黄色を帯び皮は厚かった。昔は単にウリと称えまたホソジともいった。またアマウリともアジウリとも呼んだ。また土佐ではマウリといっていたが、それはマクワウリの略せられたものである。そしてマクワウリの学名は Cucumis Melo L. var. Makuwa Makino である。
前に書いた古名のホソチは
マクワウリの漢名は
シロウリ(越瓜)、ツケウリはみなマクワウリの変種である。これらは親に似ず甜くないから、菜果の方へ回されている。ここに面白いことはこのシロウリの学名を初め Cucumis Conomon Thunb. といった。この種名の Conomon すなわちコノモンは香ノ物であるが、これは命名者ツューンベリが奈良漬けを香ノ物と思ってそう書いたものだ。今この学名は Cucumis Melo L. var. Conomon Makino と改称せられている。そしてこのシロウリは俗に Oriental Pickling Melon と呼ばれる。
ナシウリ(すなわち梨瓜の意)というものがある。これもマクワウリの変種で Cucumis Melo L. var. albidus Makino の学名を有する。また市場に出ているいわゆるメロンもまた同じく Cucumis Melo L. の変種である。その果皮すなわち膚に網の眼のあるものを網メロン、または網ノ眼メロン、または
「駒の渡りの瓜作り、瓜を人にとられじと、守る夜あまたになりぬれば、瓜を枕につい寝たり」という今様歌がある、瓜を枕に野天の瓜畑で寝た風流はまことに羨ましい。
マクワウリ 甜瓜(Cucumis Melo L. var. Makuwa Makino)
『日本産物志』美濃部より模写