植物一日一題 牧野富太郎

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 根笹
 
 根笹(ネザサ)は何度刈っても幾度刈っても一向に性こりもなく後から後から芽立って来て仕方ないもので、庭でも畑でもじつに困りものの一つである。いったい根笹に限らず竹の類はみな同様である。
 なぜそう次ぎから次ぎからと出て来るのか。それは用意された芽が無数にあるからである。すなわちその地下茎(いわゆる鞭根)でも、またそれから岐れた枝でも、さらにまたそれから地上に出た幹枝でも、みなその多くの節には必ず一つずつの芽を持っていて、不断は何年間も眠っているのだが、時いたればたちまち萌出する。だからいくら先きの方、上の方を伐りとっても、すこしもひるまず続々と出で来るので始末におえなく、まことに根強い繁殖の方法をとっているが、つまるところあらかじめ用意された芽が非常に豊富だからである。竹の節には地下部と地上部とを問わず、その節のあらん限りにみな一つずつの芽を用意している、すなわち節が十あれば芽が十、節が百あれば芽が百、また節が千あれば芽が同じく千あるのである。まことにもって力強い竹類笹類ではある。
 ほかの竹も同じように、マダケ、ハチク、モウソウチクの地下茎すなわち鞭根には節毎に必ず一つの芽が用意せられてあるが、毎年でる筍は僅かの数しかなく、他の芽はみな眠りこくっている。もしその予備せられてある芽がことごとく萌出したなら無数の筍がノコノコノコノコと出る訳だ。が、しかしその鞭根は年々歳々ほんの少しばかりずつ経済的に筍の小出しをやっているのである。
 ヤダケ、メダケなどの稈は、根元からその各節に芽が用意せられてあるが、しかしそれが枝になるのは梢部であって、中途から下には通常枝が出ずにいる。しかるにもし根元の節の芽も一斉にみな芽出って枝となったとすれば、その株元から上枝葉が繁茂してすこぶる欝忽たるものになるに相違ない。
 モウソウチクの稈は他と違って中部以下の節には芽の用意がない。