植物一日一題 牧野富太郎

.

 アカザとシロザ
 
 世間の人々、いや学者でさえもアカザとシロザとを区別せずに一つに混同してアカザと呼んでいるが、これはその両方を区別していうのが本当で正しい。しかし元来この二つは共に一つの種すなわち species の内のものであるから両方がよく似ている。シロザが正種で学名を Chenopodium album L. といい、アカザがその変種で Chenopodium album L. var. centrorubrum Makino といわれる。このシロザは原野いたるところに野生しているが、アカザは通常圃中に見られ、あまり野生とはなっていないのが不思議だ。これは昔中国から渡り来ったもので中国の名はレイである。また紅心※(「くさかんむり/櫂のつくり」、第3水準1-91-33)カイテキ、鶴頂草、臙脂菜エンジサイの別名もある。
 アカザの葉心は鮮紅色の粉粒を布きすこぶる美麗である。そしてその苗が群集して一処にたくさん生えわかすえを揃えている場合は各株緑葉の中心中心が赤く、紅緑相雑わって映帯し圃中に美観を呈している。
 茎はその育ちによって大小があるが、それが太くて真直ぐに成長したものは杖となる。中国の書物にも「老フル時ハ則チ茎ハ杖ト為スベシ」と書いてある。すなわちこれがいわゆる藜杖れいじょうでアカザの杖をついておれば長生きをするといわれる。
 アカザはまた一つにアカアカザともオオアカザとも江戸アカザとも、またチョウセンアカザとも称する。そしてアカザの語原は判然とはよく分らないが、そのアカは無論赤だが、ザはどういう意味なのか。書物に赤麻アカアサの約と出ているが、この想像説には信を措き難い。貝原益軒かいばらえきけんの『日本釈名にほんしゃくみょう』には「アカザ、あかは赤なり、さはなと通ず赤菜なり」と書いてあるのも怪しい。
 シロザは一つにシロアカザともアオアカザともまたギンザとも称える。その漢名は※(「くさかんむり/櫂のつくり」、第3水準1-91-33)カイテキである。葉心は白色あるいは微紅を帯びた白色の粉粒をその嫩葉に※(「米+參」、第3水準1-89-88)さんぷしている。
 アカザもシロザも共にその葉が軟くて食用になる佳蔬であるから、その嫩葉を摘むことの出来る限り、大いにこれを利用して食料の足しにすればよろしい。