蘭と
中国の書物にはよく
この一茎九華なる蘭は中国特産の蘭品である、すなわちいわゆる東洋蘭の一種で Cymbidium scabroserrulatum Makino の学名を有する。我が日本へ中国からその生品が来て愛蘭家はこれを培養している。中国の蘭画の書物にはこの蘭を描いたものが多いところをみると、同国には山地に多く生えている普通な蘭であろう。
蘭そのものをかく書くのはどういう意味か。これはその花香にちなんでこのの字を用いたものである。ではそのとは何か。は香草の一種であるから字書にカオリグサと訓ませてはあるが、しかしカオリグサの草名はない。ないのが当り前でこの字書へ訓を付けた人も無論その草を知らなかったからだ。それならその草は何んだ。そのと名づけた草は、クチビルバナ科(唇形科)に属する新称カミメボウキ(神目箒の意)すなわち Ocimum sanctum L. そのもので、古くから中国には栽培せられてあったが日本へは未渡来品である。そしてこの草の原産地は熱帯地で、インド、マレーからオーストラリア、太平洋諸島、西アジアからアラビアへかけて分布していると書物にある。
右のすなわち草は一名
薫草すなわち草は目を明にし涙を止めるといわれるので、それでメボウキすなわち目箒である。目へ埃などが入ったとき、その実を目に入れるとたちまちその実から粘質物を出して目の中の埃を包み出し、目の翳りを医するからである。つまり目の掃除をするのである。