三度グリ、シバグリ、カチグリ、ハコグリ
諸国に往々三度グリと呼んでいるクリがあって、その土地の名高い名物となっていることがある。すなわちそれは一年に三度実が生るというのである。実際そんなクリがあるにはあるが、じつをいうと何も一度、二度、三度と区切って実が生るのではなく、夏から秋まで連続してその実が着くのである。
かく呼ばれている三度グリについては、私の生国土佐にもその例があって『
土佐に三度グリというクリがあって『土佐国産往来』にも出ている。明治十四年(1881)私が二十歳の時の九月に、植物採集のため同国
伊予の国の某村にも右の土佐の三度栗と同様なものがあって、昭和六年の秋私が同国へ赴いたとき土地の人がそこを天然記念物保護地にしたいとの希望で、私の意見を求められたことがあったが、私は言下にそれは無駄だからヨセといって止めさせた。なぜなれば、もしそこを保護してそのクリを伐らなかったならば、たちまちその三度グリたる現状態が見られなくなるからであった。そしてこんなクリはやはり野に置けでないとその天真を失ってしまうことになる。
右のような小木のクリを
上のいわゆる三度グリと同様のものは、春に山を焼く場所にはどこにも見られ、敢えて珍らしいものではない。私は先年肥後葦北郡水俣の山地でもこれを見たのだが、同地にも普通に多く生長して多数な
三度グリについて小野
貝原
およそ二百五十年前の嘉永三年(1850)に上梓せられた『
右の『桃洞遺筆』に引用されている『
元来栗は中国の産である、クリこそは日本にあるが栗は日本にはない。学名でいえば中国の栗は Castanea mollissima Blume=Castanea Bungeana Blume)であって Chinese Chestnut の俗名を有し、和名はシナグリ(支那グリ)一名アマクリ(甘クリ)であり、日本のクリは Castanea crenata Sieb. et Zucc. であって Japanese Chestnut の俗名をもっている。そして中国の栗は同国の特産で日本には産せず、日本のクリは日本の特産で中国には産しない。だから中国の書物にある栗または杭子を我がサヽグリにあて、茅栗を我がシバグリにあて、板栗を我がタンバグリにあて、山栗を我が
右『本朝食鑑』よりずっと後に出版せられた『倭漢三才図会』によれば、「
ここに珍らしいクリにハコグリ(箱グリの意)というのがあって、まれに見受けられる。『本草綱目啓蒙』栗の条下に「江州ニ一毬ニ七顆アルアリ、ハコグリト云毬ノ形四稜ニシテ闊シ」と書いてある。
このハコグリが今東京都練馬区東大泉町五百五十七番地なる私宅の庭に育っている。これは藪を切り開いてこの宅地を設けるとき、偶然その樹を藪中に発見したので、これは珍らしいと保存したものである。その