﹃検証 ナチスは﹁良いこと﹂もしたのか?﹄︵小野寺拓也、田野大輔/岩波書店︶ 2023年12月15日に発表された﹁紀伊國屋じんぶん大賞2024 読者と選ぶ人文書ベスト30﹂。大賞に選ばれたのは﹃検証 ナチスは﹁良いこと﹂もしたのか?﹄︵小野寺拓也、田野大輔/岩波書店︶だった。 読者の選ぶ﹁2023年のベストの人文書﹂が、もう100年近くも前になるナチス・ドイツの政策を検証した本……というのは、いささか奇妙に感じる人もいるだろう。だが実際に読んでみると、この本は﹁いま読むことに大きな意味がある本﹂だと感じたし、﹁人文書の矜持と歴史の専門家の責任を示した本﹂にも感じられた。 そもそも本書が執筆された背景は、インターネット上で﹁ナチスは良いこともした﹂と声高に主張する人が増えていたことにある。 著者のひとりの田野大輔氏がそうしたTwitter︵現・X︶の投稿の一つに、﹁30年くらいナチスを研究し