取材・文/白鳥士郎 ﹁俺には自分の作品が無い﹂ 薄暗いタクシーの後部座席で男が放ったその言葉に、耳を疑った。 何も言えなくなった私を血走った両目で見ながら、男はもう一度こう言った。 ﹁俺は代表作が無い。ロードスみたいなものは、ラノベじゃあ書けなかった。だから俺は歴史小説を書く。新しいジャンルで勝負する。だから、お前は……!﹂ 肩が触れ合うほどの距離で何度そう言われても、自分の耳を信じることができなかった。代表作が無い? 何を言っているんだこの人は? だってあなたは……あかほりさとるじゃないか。 あかほりは膨大な作品に携わってきた。 ﹃NG騎士ラムネ&40﹄﹃セイバーマリオネット﹄﹃爆れつハンター﹄﹃MAZE☆爆熱時空﹄﹃天空戦記シュラト﹄﹃サクラ大戦﹄﹃らいむいろ戦奇譚﹄﹃MOUSE﹄﹃かしまし ~ガール・ミーツ・ガール~﹄……挙げればきりがないほどだ。 その同じ夜。 私はもう一人の男と並