﹁もう一度、一から説明しましょうか!﹂。医師は突然、声を荒らげた。昨年末、兄が大病をした。治療法の説明の場に私も同席し、質問しまくった。もちろん面白半分にではない。学会のガイドライン本︵書店でも買える︶を読み、病状の微妙な差によって治療法も違うことを知っていたからだ。 だが、医師は﹁そんな細かいところまで聞いてきたのはあなたが初めてですよ﹂などと繰り返し、明らかにいらだっていた。揚げ句に、私が﹁念のため確認しますが……﹂と治療法のある細部についてたずねた途端、冒頭のようにキレてしまったのである。 私はひるまず質問し続けたが、こうした場面に慣れていない人なら黙ってしまっただろう。医師と患者・家族を隔てる﹁壁﹂はまだまだ高いと痛感した。申し添えておくと、医師はその後も献身的に兄を診てくれた。︻平野幸治︼